JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS23] [JJ] 海洋化学

2017年5月20日(土) 09:00 〜 10:30 303 (国際会議場 3F)

コンビーナ:川合 美千代(東京海洋大学大学院海洋科学研究科)、野村 大樹(北海道大学大学院水産科学研究院)、芳村 毅(一般財団法人電力中央研究所)、座長:川合 美千代(東京海洋大学大学院海洋科学研究科)、座長:芳村 毅(一般財団法人電力中央研究所)

09:15 〜 09:30

[AOS23-02] 黒潮-親潮混合水域におけるpCO2・アルカリ度表層連続観測

*小杉 如央1笹野 大輔1石井 雅男1岡 英太郎2鋤柄 千穂3 (1.気象研究所、2.東京大学大気海洋研究所、3.名古屋大学)

キーワード:黒潮親潮混合領域、アルカリ度、pCO2

2016年6月に本州東方域で行われた白鳳丸KH-16-3航海で海洋表層の二酸化炭素分圧(pCO2)とアルカリ度(TA)の航走連続観測を行った。本航海で使用したTA連続測定装置は15分に1サンプルの測定が可能であり、12ノットで航走の場合およそ6km毎のTAが取得可能である。これは緯度経度1度毎のWOCE型観測と比べて比べてひと桁以上の空間分解能が向上したことになる。この観測の目的は(1)亜熱帯亜寒帯混合域におけるTA変動の把握(2)pCO2とTA同時測定による炭酸系パラメータの計算(3)同海域における水塊トレーサーとしてのTAの利用可能性の検証の3点である。
表面のTA(Figure 1○)は経度2度毎に行ったCTD観測点での測定結果(Figure 1■)の内挿では捉えられない細かい空間変動を示した。水温塩分などのパラメータからTAを推定する手法として広く用いられているLee et al. [2006]による値(Figure 1灰点)と表層連続測定のTAと比較したところ、当海域では推定による値が測定値比で最大約30 μmol/kg過大になっていた。この傾向は高緯度域で特に顕著だった。
航走連続観測で取得したTAとpCO2から計算した全炭酸(DIC)を、近傍のCTD観測点で深度10 mから採水・測定したDICの値と比較したところ、差と標準偏差は-0.8±5.4 μmol/kgであった(計算値-実測値、サンプル数38)。TAとpCO2の同時測定によってDICやpHなど他の炭酸系パラメータも高精度かつ空間的に密な分布が得られることが示された。これは前述のようにTA推定式の誤差が大きい亜熱帯亜寒帯混合域や、空間変動が大きい上に河川水によるTA変動もみられる沿岸域の測定に極めて有用である。
TAは塩分を一定に規格化すると降水や蒸発による変動を除去でき、小さいとされる生物活動による変動を無視すれば水塊の起源を特定する準安定的なトレーサーとしての利用が期待できる。これまでの研究で海面のTAを塩分35に規格化したNTA35(=TA/S*35)は黒潮続流以南では約2300 μmol/kg、亜寒帯循環域では約2370 μmol/kgであることが知られている[Takatani et al., 2014]が、今回の観測では北緯41度付近では2310-2355 μmol/kg、北緯37.5度では2300-2335 μmol/kgの範囲にあり、東西方向の変動も大きかった。これは当海域で亜寒帯・亜熱帯両系水の複雑な分布を反映している。NTA35に対してpCO2をプロットすると、NTA35=2320 μmol/kg付近に極小を持つ凹型の構造になった。NTA35がこの値以下の亜熱帯系水では栄養塩が枯渇しており昇温でpCO2が上がっていた。一方この値以上の亜寒帯系水ではまだ栄養塩が余っており、冬季混合で表面に現れた高いDICが生物生産で消費されていないためにpCO2が高くなっていた。