JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS23] [JJ] 海洋化学

2017年5月20日(土) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:川合 美千代(東京海洋大学大学院海洋科学研究科)、野村 大樹(北海道大学大学院水産科学研究院)、芳村 毅(一般財団法人電力中央研究所)

[AOS23-P01] 分光光度法による北極海の低アルカリ度海水測定の妥当性

*渡井 智則1出口 恵美1小野 敦史1藤木 なぎさ1 (1.株式会社マリン・ワーク・ジャパン)

キーワード:アルカリ度、分光光度法、北極海

海水のアルカリ度測定には、電位差滴定法と分光光度法が主に用いられており、いずれも測定に適したアルカリ度の範囲は2000 μmol kg-1 – 2500 μmol kg-1である。電位差滴定法は古くから用いられている手法である一方、分光光度法は1990年代に開発された手法であり、一般的に分光光度法の方が測定分解能が高く、また近年開発された手法であることからコンピュータ制御により多くのサンプルを簡便に測定するのに適した仕様となっていることが多い。以上から外洋域における大陸間縦横断観測では分光光度法による測定が主流となりつつあるが、沿岸域や極域の低アルカリ度海域においても分光光度法により測定される場合がある。海洋研究開発機構が所有する海洋地球研究船「みらい」においては、この十年ほど河川水の流入や海氷の融解による低塩分・低アルカリ度海水が多く観測される北極海において分光光度法により測定を行っている。本研究では、低アルカリ度の海水を分光光度法で測定した場合、測定値と真値との差異がどの程度あるのか実験を行い検証した。

 実験は、A. G. Dickson博士の研究室から提供されている認証標準物質(Certified Reference Material: CRM)、およびアルカリ度が0と見なせる超純水でCRMを10%から90%まで希釈した9種類の溶液を、「みらい」搭載の分光光度法を用いたアルカリ度測定装置を用いて測定することで行った。分光光度法による測定では、pH指示薬であるブロモクレゾールグリーンナトリウム(BCG)を加えた約0.05 mol L-1塩酸を主とした溶液(滴定塩酸)を、定容した測定試料に添加することで行い、添加後のpHからアルカリ度を算出している。BCGはpH 3.4 – pH 4.6の範囲で発色特性を有しているが、添加後のpHが異なると、すなわち添加する滴定塩酸量が異なると、このpHの範囲内であっても算出されるアルカリ度が異なることがわかっている(以下、pH依存性と称する)。このため一定の精度内で測定するためには滴定添加後のpHが3.7 – 4.0や、3.8 – 4.2であることが求められている。本研究では、このpH依存性が希釈率すなわちアルカリ度の大小によってどのように変化するかも合わせて検討するため、各希釈率の溶液において、滴定塩酸添加後のpHが約3.4から約4.8の間で段階的に変化するよう滴定塩酸を一定量添加後少量ずつ段階的に添加し、都度アルカリ度の算出を行った。

 アルカリ度測定時のpH依存性について、調製した各希釈溶液のアルカリ度の測定値と理論値の差と、測定時のpHとの関係から検討を行った。アルカリ度測定時のpH依存性は一定ではなく希釈率によって異なることがわかる。希釈率0 %から10%(アルカリ度にして2012.9 μmol kg-1から2236.5 μmol kg-1)の溶液、つまりは外洋域で一般的に観測されるアルカリ度の範囲では、全般的にpHに依らず測定値と理論値の差異は10 μmol kg-1以内でおおよそ一定であるが、それより希釈率が高まると、つまりは低アルカリ度であるほど、測定時のpHによって測定値が大きく異なり、その差は希釈率が高い(アルカリ度が低い)ほど大きくなることが伺える。また高pH側では測定値の方が理論値より高いものの、pHが低下するにしたがってその差は縮まり、より低pH側では測定値の方が低くなりその差もpHの低下とともに増加する傾向がある。

 分光光度法による測定値と理論値との差異については、アルカリ度に応じた系統的な差異が認められた。滴定塩酸添加後のpHが3.8 – 4.2の範囲内で測定された値について希釈率毎に平均することで測定値の平均値を算出し理論値との差異を検討したところ(図)、およそ1300 μmol kg-1から1800 μmol kg-1の範囲で測定値の平均値は最も理論値より高く、その差は8 μmol kg-1 - 10 μmol kg-1程度である。それより高アルカリ度側および低アルカリ度側では、測定値の平均値と理論値との差は小さくなり、低アルカリ度側では約700 μmol kg-1で理論値とほぼ同一となり、それ以下ではpHの低下とともに測定値の平均値が理論値より小さくなる。低アルカリ度海水が多く観測される北極海では、アルカリ度を高めに見積もっていることが多いと考えられ、このことは実際のアルカリ度は測定される値より低く、つまりはアラゴナイトの飽和度も低くなることから、現在見積もっている以上に海水の酸性化が進行している可能性がある。