JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS25] [JJ] 地球温暖化・海洋酸性化に対する沿岸・近海域の海洋応答

2017年5月22日(月) 09:00 〜 10:30 303 (国際会議場 3F)

コンビーナ:小埜 恒夫(国立研究開発法人 水産研究・教育機構)、藤井 賢彦(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、芳村 毅(一般財団法人電力中央研究所)、座長:芳村 毅(一般財団法人電力中央研究所)

09:30 〜 09:45

[AOS25-03] 溶存クロロフルオロカーボン類が示す日本海熱塩循環の急激な弱化の証拠

*荒巻 能史1田中 伸一1 (1.国立研究開発法人国立環境研究所)

キーワード:日本海、クロロフルオロカーボン類、熱塩循環、地球温暖化

日本海では、北西部海域において冬季にアジア大陸から吹きつける冷たい季節風によって冷却され密度を増した表層水が海底付近まで沈み込む、独自の熱塩循環を有することが知られている。その結果、日本海深層は西部北太平洋の同深度に比べて低温で溶存酸素に富んだ海水で満たされている。しかしながら、継続的なモニタリングによると、1960年代以降、同水塊の水温は徐々に上昇し、逆に溶存酸素濃度は減少傾向にあることが示されている。これは、近年の地球温暖化によって冬季の冷却が弱まり、結果として熱塩循環が停滞しているものと考えられているが、その定量的な議論は十分ではない。そこで本研究では、水塊年齢トレーサーとして有効な溶存クロロフルオロカーボン類(CFCs、ここではCFC-11,CFC-12およびCFC-113を対象とする)を空間的に密に測定して熱塩循環の弱化の規模を評価した。CFCsの生産は1930年代に開始され、1960年代以降に急激に大気中濃度が増加した。海洋へは大気海洋間のガス交換によって取り込まれ、海水中では加水分解されない。熱塩循環が存在する日本海においては、冬季に表層水が深層へと輸送されると、高いCFCs濃度を持つ表層水との混合によって深層海水中のCFCs濃度が絶えず書き換えられる。したがって、現在の深層海水中のCFCs濃度は1930年代以降の日本海の熱塩循環の情報を記録していることになる。本研究では、北海道大学おしょろ丸第229次航海(2011年6~7月)およびJAMSTEC淡青丸KT-12-26航海(2012年10月)により日本海盆および大和海盆にてCTD/RMS観測を実施し、海水中のCFC-11、CFC-12およびCFC-113を高感度かつ高精度で分析した。CFCs鉛直分布は、水深100mから500mの間に濃度の極大があり深さとともに低減傾向を示し、すべての海域で水深およそ2200m以深ではほぼ一定の濃度となった。そこで本研究では、深層海水のうち水深2200m以深の海水を底層水と定義した。底層水では大和海盆のCFC-12が日本海盆よりも最大で1.8倍高い一方で、CFC-11は1.6倍、CFC-113が1.2倍とそれぞれ異なっていた。さらに、CFC-12/CFC-11比から算出された深層水と底層水の見かけ上の海水形成年代は海域に因らず1960年代を示した。もし熱塩循環が毎年冬季に同じ規模で起こっているならば、大気中のCFCs濃度の時間変動を考慮すると海水形成年代はより新しい値を示すべきであり、この計算結果は1960年代以降については表層水の深層への沈み込みがほとんど起こらなかったことを示唆するものである。一方、CFC-12/CFC-113比では1980年代を示した。CFC-113は1960年代はじめに大気中ではじめて濃度が確認され1970年代から濃度上昇していることから、1970年代以降にも表層水の深層への沈み込みが起こっていたことを示すものである。この矛盾は、各CFCsの大気濃度がそれぞれ異なる時間変化を示すことや、1970年代以降に熱塩循環の規模が変化したことに起因すると考えられる。そこで、熱塩循環によって日本海盆と大和海盆の深層水および底層水に毎年冬季に表層水が取り込まれるものと仮定したボックスモデルを構築して、1975年以前とそれ以降の深層水および底層水に表層水が取り込まれた割合(表層水の深底層水への寄与率)を算出した。1975年を境界としたのは、同モデルにおいて1970年代に深層水中のCFC-113が有意な濃度に達したからである。その結果、深層水および底層水における1975年以降の寄与率はそれ以前の21-30%および15-41%に減少していた。つまり、最近およそ40年は日本海の熱塩循環がそれ以前の半分以下にまで弱化したことになる。さらに、この寄与率を海域ごとに比較すると、大和海盆が日本海盆よりも低下の規模が大きかった。これらの結果から、熱塩循環の急激な弱化によって深層循環の流路や規模も変化した可能性が考えられる。なお、この本研究は環境省環境研究総合推進費A-1002「日本海深層の無酸素化に関するメカニズム解明と将来予測」(平成22~24年度)および2-1604「温暖化に対して脆弱な日本海循環システム変化がもたらす海洋環境への影響の検出」(平成28~30年度)の助成を受けたものである。