JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS26] [JJ] 海洋生物資源保全のための海洋生物多様性変動研究

2017年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 303 (国際会議場 3F)

コンビーナ:小池 勲夫(琉球大学)、中田 薫(国立研究開発法人水産研究・教育機構)、藤倉 克則(海洋研究開発機構海洋生物多様性研究分野)、杉崎 宏哉(国立研究開発法人水産研究・教育機構 中央水産研究所)、座長:藤倉 克則(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:杉崎 宏哉(国立研究開発法人水産研究・教育機構)

14:00 〜 14:15

[AOS26-02] 海洋生物の音響リモートセンシング

*赤松 友成1川口 勝義2岩瀬 良一2西田 周平2今泉 智人3高橋 竜三3澤田 浩一3松尾 行雄4 (1.国立研究開発法人 水産研究・教育機構 中央水産研究所 、2.海洋研究開発機構、3.国立研究開発法人 水産研究・教育機構 水産工学研究所、4.東北学院大学)

キーワード:受動的音響観測、海底ケーブル、魚群探知機

本研究では、海洋生物の音を用いて衛星から見た雲の動きのように生物分布を明らかにする音響リモートセンシング技術の実証を目標とした。日本で最大の水中生物を対象とした音響観測ネットワークを構築し、海洋生物の遠隔的種判別技術を開発した。2011年から3年間を基礎ステージと位置づけ、観測および解析態勢の整備をすすめた。2015年からの2年間を応用ステージと位置づけ、開発技術の実証を行った。生物音を受動的に記録するパッシブ方式と超音波をあてて反射音を測るアクティブ方式、および地震観測網を用いたケーブル方式が、3つの主要な耳となった。パッシブ方式は主として定点での運用を行い、アクティブ方式は主として移動しながらの運用を行った。北海道から沖縄まで、全国に観測定点を設けて延べ10万時間以上の録音を研究期間中に行った。これに加え、ケーブルによるアーカイブデータの発掘分が20年以上に及んだ。あらかじめ把握した種ごとの音声や反射音の特性を参照し、得られた水中音から特定の生物の音を抽出した。また、複数の受信点への音の到達時差を利用し密度推定モデルを適用することで、生物個体の位置や行動、個体数の情報を得た。
これまで定性的な存在確認にしか使えないと思われてきた受動的音響調査手法が、定量的な密度推定や分布地図の作成に使えることを実証した。本研究で開発された音響的二重独立再捕法や点音源密度推定法は、音声を発する生物に一般的に使えるモデルであり、今後の海洋生物の調査方法に新しい定量手法を提供すると考えられる。千葉・茨城沖では20の観測定点を敷設し、魚類・甲殻類・小型鯨類の種別分布地図とその動画情報を得た。また館山湾ではアクティブとパッシブ手法を組み合わせた多種同時曳航式観測を行い、底生生物と表層生物の同時可視化を実現した。釧路・十勝沖ケーブルでは、船舶調査が困難な冬季を含め、8年間のナガスクジラの来遊に明瞭な季節性があることを確認した。また過去にアーカイブされたデータの発掘により20年に及ぶ相模湾でのマッコウクジラの出現動態を示した。また、地震観測において今まで原因がわからなかった生物由来の信号源が明らかになり、特徴抽出などで分別することで今後の地震観測の精度を向上させることも期待された。魚からの反射波を用いた能動的観察手法による魚種の判別では、画像認識や音声認識分野で活用されている機械学習の1つであるサポートベクターマシンやディープ・ラーニング・ニューラルネットワークを用いて、自由遊泳中の個々の魚を捉え、マアジ、マサバ、カタクチイワシ等の魚種判別に成功した。この手法は多くの種への応用が期待され、今後の海洋生物の調査に有効と考えられる。
洋上風力発電の環境影響評価に要する期間の半減を目指すことが政府の目標となっている。本研究による開発技術は我が国の多くの洋上風力発電建設海域における海洋生物アセスメントに導入され、高精度なデータ収集能力と高次捕食者の信頼性の高い検出により事実上の標準調査法に採用されている。得られた成果は、環境基礎情報データベースの構築に利用されアセスメント手続きの高速化に貢献する見込みである。限られた範囲であるが、数百平方kmでの生物地図を音響的に得ることができた。これからの海洋生物観測に、CRESTで開発された「音響リモートセンシング」という新しい手法が加わった。