JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS26] [JJ] 海洋生物資源保全のための海洋生物多様性変動研究

2017年5月21日(日) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:小池 勲夫(琉球大学)、中田 薫(国立研究開発法人水産研究・教育機構)、藤倉 克則(海洋研究開発機構海洋生物多様性研究分野)、杉崎 宏哉(国立研究開発法人水産研究・教育機構 中央水産研究所)

[AOS26-P06] 珪藻の進化・繁栄の謎を握る未知の藻類:パルマ藻の生物学

*桑田 晃1 (1.国立研究開発法人水産研究・教育機構 東北区水産研究所)

キーワード:海洋、植物プランクトン、珪藻、進化、生態

現在の海洋生態系において、特徴的なシリカの殻を持つ珪藻は、最も繁栄している微細藻類である。珪藻の分布域は海洋全域にわたり、その多様性は海洋の微細藻類中で最も高く、光合成量も地球全体の20%以上と熱帯雨林に匹敵する。近年、珪藻の海洋生態系における重要性が注目され、その繁栄機構・シリカの殻の形成機構・進化過程の解明を目指した研究が世界的に盛んになりつつある。現にその目的のため珪藻数種の全ゲノム解読が終了し、次々と新しい知見が報告されている。しかしながら、地球上で珪藻がどのように出現し、現在の繁栄に至ったのか?その進化過程については、極近縁の生物との詳細な比較研究がなされないため、未だ不明の状態である。
 珪藻の起源に関しては、1999年に亜熱帯域で発見されたボリド藻が、分子系統的には現在最も珪藻と近縁なグループとなっているが、珪藻とは全く形態の異なるシリカの殻を持たない微小鞭毛藻であり、珪藻の起源は依然謎である。一方、1976年にサイズは2-5μm と非常に小型ながら、珪藻同様にシリカの殻を持つパルマ藻が北西太平洋の亜寒帯域で発見され、珪藻と進化的に密接な関係を持つことが予想されたたが、発見以来30年以上培養が確立できずパルマ藻の実体は全く不明であった。そのような状況下、2008年に我々は世界で初めて親潮域よりパルマ藻の単離培養に成功した。得られた培養株を対象に電子顕微鏡による形態観察、分子系統解析および光合成色素分析を進めた結果、パルマ藻は、ボリド藻同様に珪藻と極近縁で共通の祖先を持つことを明らかにした。これは、珪藻の繁栄機構と進化過程の解明にとって格好の対照生物を手に入れたことを意味する。そこで我々は、親潮周辺海域でのフィールド調査、室内培養実験、メタゲノミクス、ゲノム解読、分子化石(バイオマーカー)の探索等の様々なアプローチにより、未知の藻類:パルマ藻の全貌解明を目指し研究を進めている。本発表では、我々により明らかになりつつあるパルマ藻の分子系統、個体群維持機構、全球分布、シリカの殻形成、生活史、ゲノム等の最近の知見を紹介する。