[AOS27-P01] ベンガル湾の生物地球化学におけるエアロゾルの役割
キーワード:ベンガル湾、天然起源・人為起源エアロゾル、生物地球化学
陸から海洋へ供給される大気塵(エアロゾル)が海洋の様々な生物地球化学に影響を与えていることが報告されてきた。現代のみならず氷期においても、陸域起源のエアロゾルが海洋の栄養塩濃度を増加させ、基礎生産力、沈降粒子量の増加を誘引する可能性が指摘されている。一方、陸域エアロゾルの海洋供給は有害金属を海洋へ供給したり、海洋の酸性化を促進させたり等負の効果も考えられる。インド洋北東部に位置するベンガル湾は北側および東西を陸に囲まれた半閉鎖的な熱帯海域である。強い日射に加え、ガンジス川、ブラマプトラ川という世界最大級河川による淡水流入、さらに北半球夏季モンスーン(南西風)による多量の降雨により成層構造が発達するため亜表層からの栄養塩供給が極めて少ない貧栄養海域である。このベンガル湾において海洋表層の基礎生産力を高めるための栄養塩供給メカニズムとしては、海洋内部の中規模渦、サイクロンのような気象擾乱に加え、陸域エアロゾル供給が挙げられる。インド洋特有のモンスーンシステムにより、冬季は北東風が卓越し陸から海に向かって風が吹くため、陸域から天然起源あるいはバイオマスバーニングや化石燃料使用による人為起源のエアロゾルが大量にベンガル湾に供給される。ベンガル湾の特徴として、湾周辺国には世界人口の約1/4が集中している。特にインドやバングラディッシュは大気汚染度(PM2.5濃度)が高いことで知られており、大量の人為起源のエアロゾルがベンガル湾周辺で発生し大気中へ放出されている。アラビア海に比べると、春季はより多くの天然起源・あるいは人為起源のエアロゾルが供給されやすい海域であるとの報告がある。人為起源エアロゾルに含まれるmicronutrientである鉄は、天然起源エアロゾルに比較すると、濃度が高く、かつ溶出しやすい(換言すれば、生物に利用されやすい)との報告がある。したがって将来的にはより多くの鉄が海洋に供給された結果、鉄不足の海域では基礎生産力が増加する可能性がある。またベンガル湾南東部に位置するインドネシアからも山火事、火山噴火、バイオマスバーニングによる大量のエアロゾルが発生し同海域の海洋の生物地球化学に影響を与えている可能性も指摘されている。大量のエアロゾルがベンガル湾海上大気に輸送された場合は日射を遮断し、海洋の一次生産力を低下させる効果もあるはずである。従って生物地球化学におけるエアロゾルの役割を研究する上でベンガル湾は“ホットスポット”と言える。本発表ではベンガル湾の生物地球化学におけるエアロゾルの役割に関する研究例をまとめ、2018年に計画されている観測研究航海について紹介する。