JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS28] [JJ] 生物海洋学

2017年5月20日(土) 15:30 〜 17:00 303 (国際会議場 3F)

コンビーナ:齊藤 宏明(東京大学大気海洋研究所)、杉崎 宏哉(国立研究開発法人水産研究・教育機構 中央水産研究所)、座長:齊藤 宏明(東京大学大気海洋研究所)、座長:杉崎 宏哉(国立研究開発法人水産研究・教育機構 中央水産研究所)

16:15 〜 16:30

[AOS28-04] ミズクラゲポリプの増殖:機能的応答とエネルギー収支

*上 真一1池田 英樹1溝田 千秋1 (1.広島大学)

キーワード:クラゲ大発生、ポリプ、機能的応答、エネルギー収支

1.緒言
鉢クラゲ類メデューサの出現量は一般に顕著な年々変動を示し、時に大発生する。その原因究明のカギはポリプにある。ポリプは特異的な無性生殖方法により個体群の増大を図ることができ、さらに季節的にストロビラに変態して、多くのエフィラを水中に放出するからである。そうなると、クラゲ大発生の原因究明において最も肝要なことは、ポリプの再生産や個体群動態に影響する要因を抽出し、それらの影響を定量的に評価することである。そこで、本研究ではミズクラゲのポリプ期におけるエネルギー収支を明らかにし、ポリプの再生産速度に及ぼす水温と餌密度の影響を評価した。
2.材料と方法
実験に使用したミズクラゲのポリプは、2011年に博多湾で採取した成熟メスに由来し、以後継続飼育したものである。ポリプの呼吸速度に及ぼす水温と塩分の影響、捕食速度に及ぼす餌(カイアシ類、ベントス幼生)の質的違い、餌密度、水温の影響を調査した。それらの結果に基づいて炭素収支モデルを構築した。そのモデルを福山湾のポリプ個体群に当てはめ、純生産(体重増加と再生産)速度の季節変動を算出した。
3.結果と考察
3−1.呼吸速度
呼吸速度に及ぼす水温の影響は顕著で、単位炭素重量当たりの呼吸速度は8℃から28℃への水温上昇に伴い、指数関数的に増大した。一方、塩分は影響せず、15〜33の範囲では呼吸速度はほぼ一定であった。
3−2.捕食速度
ポリプは与えたいずれの餌でも捕食可能で、しかもその捕食速度は既報の微小動物プランクトンを餌とした場合よりもはるかに高かった。ポリプは中型動物プランクトンを主要餌生物にしていると考えられる。複数の分類群で構成される中型動物プランクトン群に対してポリプは次のような機能的応答を示した。即ち、捕食速度は餌密度の上昇に伴い直線的に増大し、実験した餌条件下では飽和することはなかった。ただし、捕食速度は餌のサイズや遊泳速度による影響を受けた。また、濾水速度は餌密度に関係なく一定で、水温と正相関を示した。
3−3.炭素収支モデルの構築とその野外ポリプ個体群への適用
上記実験結果に基づいて炭素収支モデルを構築し、水温と餌密度を変数としてポリプの純生産速度を定式化することができた。その式を福山港(水温範囲:9.7〜27.2°C、カイアシ類現存量範囲:9.7〜82.7 mg C m-3)のポリプ個体群に当てはめた。富栄養化したこの湾内でポリプは常に純生産を行い、その速度は0.0039〜0.34 µg C µg C-1 d-1の範囲で変動した。モデル式から、ポリプの呼吸速度を賄えない餌濃度(4.6〜8.6 mg C m-3)以下の貧栄養海域ではポリプは生息できないことも明らかになった。
4.まとめ
ミズクラゲのポリプの再生産速度には餌供給量が顕著な影響を及ぼすことから、富栄養化はクラゲ大発生の主要な原因であることが確かめられた。広義のミズクラゲは世界中の沿岸域に分布するが、ここで使用したミズクラゲと同様の生活史パターンや生理生態的特性を有する種類には、本モデル式が適用可能である。