[AOS28-P01] 犬吠崎沖の低次生産機構と黒潮続流域への影響
キーワード:プランクトン、房総沖、黒潮
本州南方海域に産卵場を持つマイワシやカタクチイワシ、サンマ等の小型浮魚類の仔稚魚は、黒潮とその周辺を輸送されながら成長していくとされる。輸送中の環境は地理的に変化するものと考えられるため、これら仔稚魚の輸送中の環境条件を理解するためには、輸送域内の地理的変異について、周辺域も含めて理解する必要がある。房総沖は黒潮続流の入口にあたり、輸送過程において重要な海域の一つであるが、低次生産過程についての知見が少ない。今回は、黒潮が東へ向きを変える犬吠埼沖周辺海域の低次生産構造を解明することを目的として、衛星観測データおよび海洋観測結果を解析した。
衛星観測データ:海表面水温(SST)および海表面クロロフィル濃度(SSChl)について、東経135度30分から142度、北緯30度から37度、水深500m以深の範囲を集計した。東経138度15分から141度15分に含まれる水深が3000m以浅の海域を伊豆海嶺域とし、伊豆海嶺域を除く集計範囲を東経140度を境に東西に分け、西側を駿河灘とし、東側を更に北緯35.7度を境に南北に区分して南側を房総沖、北側を鹿島灘とした。SSTにはOISST (AVHRR only) 、SSChlにはMODIS-Aquaのデータを利用し、2003年から2013年のデータについて8日間平均値を作成し、集計を行った。
水深500m以深の海域での海表面クロロフィルの季節変動において、駿河灘と房総沖は最大値がそれぞれ0.75および0.84 µg L-1と同程度だった。最大値をとる時期は駿河灘で3月末から4月初頭、房総沖ではそれより約1ヶ月遅かった。鹿島灘では最大値が1.10 µg l-1と他海域を上回り、海域の平均が0.8µg l-1を超える期間が4月半ばから6月半ばまで継続した。
海洋観測:2009年4月・2015年4・5月に、東経137度から147度、北緯32度から38度の範囲で海洋観測を行った。各観測点では、CTDセンサーによって、水温・塩分の鉛直プロファイルを深度1000mまで取得し、クロロフィル濃度分析用の試料を0-200 m の深度から採集した。動物プランクトンについては数種の目合および採集深度での観測を行ったが、これらのうち目合100 µmのノルパックネットによる50 mの採集物の分析結果を解析した。
2015年4・5月の観測時の海況は、久保(1985)によって整理された3パターンのうち、黒潮が東西に流れる「Oパターン」であった。犬吠埼周辺の観測点において、鹿島灘から房総半島北部にかけて沿岸域の表層に周辺よりポテンシャル密度(σθ)が0.25–0.5 kg m-3高い海水が分布し、その周辺で栄養塩濃度とクロロフィル濃度がともに高くなっていた。また、犬吠埼の上流と下流でそれぞれ黒潮を横切る2つの断面を比較すると、上流(南側)の断面では全体にクロロフィル濃度が2µgL-2であったのに対し、下流(北側)の断面では黒潮流軸の陸側に5µgL-2を超える高クロロフィル濃度の水塊が見られた。この高クロロフィル濃度の水塊は断面上の他の測点に比べて塩分濃度が低く、代表的な沿岸性のカイアシ類であるAcartia omoriiが高密度(> 40,000 inds m-2)に分布していた。このことよりこの水塊は、八木ら(2001)等によって指摘されている鹿島灘の反時計回りの表層流によって本州沿岸から輸送されてきたものと考えられた。
これらの結果と衛星観測データを合わせ、亜表層からの高栄養塩な海水の湧昇と、それに伴う生物生産の増加が鹿島灘から房総沖北部にかけて各年に起きていることが示唆され、水平的な移流によって黒潮続流域の餌料プランクトン環境に寄与している可能性が考えられた。
衛星観測データ:海表面水温(SST)および海表面クロロフィル濃度(SSChl)について、東経135度30分から142度、北緯30度から37度、水深500m以深の範囲を集計した。東経138度15分から141度15分に含まれる水深が3000m以浅の海域を伊豆海嶺域とし、伊豆海嶺域を除く集計範囲を東経140度を境に東西に分け、西側を駿河灘とし、東側を更に北緯35.7度を境に南北に区分して南側を房総沖、北側を鹿島灘とした。SSTにはOISST (AVHRR only) 、SSChlにはMODIS-Aquaのデータを利用し、2003年から2013年のデータについて8日間平均値を作成し、集計を行った。
水深500m以深の海域での海表面クロロフィルの季節変動において、駿河灘と房総沖は最大値がそれぞれ0.75および0.84 µg L-1と同程度だった。最大値をとる時期は駿河灘で3月末から4月初頭、房総沖ではそれより約1ヶ月遅かった。鹿島灘では最大値が1.10 µg l-1と他海域を上回り、海域の平均が0.8µg l-1を超える期間が4月半ばから6月半ばまで継続した。
海洋観測:2009年4月・2015年4・5月に、東経137度から147度、北緯32度から38度の範囲で海洋観測を行った。各観測点では、CTDセンサーによって、水温・塩分の鉛直プロファイルを深度1000mまで取得し、クロロフィル濃度分析用の試料を0-200 m の深度から採集した。動物プランクトンについては数種の目合および採集深度での観測を行ったが、これらのうち目合100 µmのノルパックネットによる50 mの採集物の分析結果を解析した。
2015年4・5月の観測時の海況は、久保(1985)によって整理された3パターンのうち、黒潮が東西に流れる「Oパターン」であった。犬吠埼周辺の観測点において、鹿島灘から房総半島北部にかけて沿岸域の表層に周辺よりポテンシャル密度(σθ)が0.25–0.5 kg m-3高い海水が分布し、その周辺で栄養塩濃度とクロロフィル濃度がともに高くなっていた。また、犬吠埼の上流と下流でそれぞれ黒潮を横切る2つの断面を比較すると、上流(南側)の断面では全体にクロロフィル濃度が2µgL-2であったのに対し、下流(北側)の断面では黒潮流軸の陸側に5µgL-2を超える高クロロフィル濃度の水塊が見られた。この高クロロフィル濃度の水塊は断面上の他の測点に比べて塩分濃度が低く、代表的な沿岸性のカイアシ類であるAcartia omoriiが高密度(> 40,000 inds m-2)に分布していた。このことよりこの水塊は、八木ら(2001)等によって指摘されている鹿島灘の反時計回りの表層流によって本州沿岸から輸送されてきたものと考えられた。
これらの結果と衛星観測データを合わせ、亜表層からの高栄養塩な海水の湧昇と、それに伴う生物生産の増加が鹿島灘から房総沖北部にかけて各年に起きていることが示唆され、水平的な移流によって黒潮続流域の餌料プランクトン環境に寄与している可能性が考えられた。