[AOS28-P02] 西部北太平洋および北極海におけるアーキアの群集構造
キーワード:アーキア、西部北太平洋、北極海
アーキアは,バクテリア,真核生物と並ぶ一大ドメインであり極限環境を含むあらゆる環境に生息しているが,その培養の困難さから生物学的機能や生態系の中での役割など不明な点が多く残されている.海水環境中にはThaumarchaeota門に属するMarine Group I(MG-I), Euryarchaeota門に属するMG-II, MG-III, MG-IVの4系統群が分布している.これらの海洋性アーキアは,中・深層水中においてバクテリアに匹敵する現存量を示すことなどから,その生態学的な役割の解明が期待されている.これまで,わずかに分離されている培養株の解析やシングルセルゲノム解析,メタゲノム解析などにより,海水環境に生息するアーキアは,浮遊生態系のエネルギー代謝や物質循環に少なからず寄与していることが次第に明らかになりつつあり,サブグループ毎に生息場所が異なるエコタイプの存在も示唆されている.しかし,その生態学的な役割と寄与を明らかにするには,「どこにどのタイプのアーキアが生息しているか」といった基礎的な知見が,バクテリアとの比較において圧倒的に不足している.
本研究では,海水濾過試料を用いて16S rRNA遺伝子をターゲットとするアンプリコン解析を行い,西部北太平洋および北極海におけるアーキアの群集構造を明らかにすることを目的とした.解析には,西部北太平洋の東経160度を縦断する3測点で鉛直8層,小笠原諸島の東沖1測点で鉛直3層(2回), 北極海の4測点で鉛直2ないし4層,合計44点の試料を用いた.採取した海水は,粒子付着性画分(PA, >3.0 μm)と自由生活性画分(FL, 0.22–3.0μm)用に孔径の異なる2種類のフィルターで連続的にろ過した.DNA抽出後,16S rRNA遺伝子のV4領域をPCR増幅しアンプリコンシーケンスを行った.配列類似性97%以上の配列をOTU (operational taxonomic unit)としてクラスタリングし,Greengenesデータベースを用いて分類群の同定を行った.その結果,検出されたアーキアの98%以上がMG-I, MG-II, MG-IIIに分類された.他にParvarchaeota,Marine Benthic Group,MG-IVが検出されたがその存在割合は合計で2%未満であった.MG-Iとして同定されたOTUのさらに詳細な分類を行うため,独自に構築したデータベースを用いた再解析を行った.その結果,MG-Iのサブグループとして現在10に分類されているサブグループのうちMG-I etaを除く9グループが検出されたが,MG-I alpha, MG-I beta, MG-I gammaが突出して多く,MG-Iの約93%を占めていた.各点の群集構造を見ると,太平洋の観測点では,海洋表層 (0 – 200 m) でMG-IIが優占し,中層以深 (> 200 m) ではMG-Iが優占であった.さらに,MG-Iのサブグループについて見ると,表層でMG-I alphaの割合が多く,中層以深にはMG-I gammaの割合が多くなっていた.これらの深度による群集構造の違いは,おおむね既報の知見と一致しており,太平洋亜熱帯海域から北極まで広範囲に見られる特徴であることがわかった.しかし,北極海の一部では表層でもMG-Iが優占し,北太平洋亜熱帯海域の亜表層クロロフィル極大層にはMG-I betaが優占するなど,既報知見とは異なる分布パターンも見られ,さらに詳細な解析が待たれる.
以上本研究の結果,亜熱帯から亜寒帯海域,さらに北極海域まで,広範囲な海域における海洋性アーキアの群集構造が明らかとなった.特に,独自のデータベースを構築することにより,汎用のデータベースでは特定できないMG-Iのサブグループ分類が可能となった.これらのサブグループのうち,少なくともMG-I alpha, beta, gammaは生息深度や増殖至適温度の違いなどにより住み分けをしているエコタイプであると考えられるため,サブグループごとに群集構造を記述することは重要である.本研究で構築されたサブグループ同定用のデータベースを用いることにより,今後は様々な海域で包括的な群集構造解析を進めることができ,サブグループごとの分布の特徴が明らかになると期待される.
本研究では,海水濾過試料を用いて16S rRNA遺伝子をターゲットとするアンプリコン解析を行い,西部北太平洋および北極海におけるアーキアの群集構造を明らかにすることを目的とした.解析には,西部北太平洋の東経160度を縦断する3測点で鉛直8層,小笠原諸島の東沖1測点で鉛直3層(2回), 北極海の4測点で鉛直2ないし4層,合計44点の試料を用いた.採取した海水は,粒子付着性画分(PA, >3.0 μm)と自由生活性画分(FL, 0.22–3.0μm)用に孔径の異なる2種類のフィルターで連続的にろ過した.DNA抽出後,16S rRNA遺伝子のV4領域をPCR増幅しアンプリコンシーケンスを行った.配列類似性97%以上の配列をOTU (operational taxonomic unit)としてクラスタリングし,Greengenesデータベースを用いて分類群の同定を行った.その結果,検出されたアーキアの98%以上がMG-I, MG-II, MG-IIIに分類された.他にParvarchaeota,Marine Benthic Group,MG-IVが検出されたがその存在割合は合計で2%未満であった.MG-Iとして同定されたOTUのさらに詳細な分類を行うため,独自に構築したデータベースを用いた再解析を行った.その結果,MG-Iのサブグループとして現在10に分類されているサブグループのうちMG-I etaを除く9グループが検出されたが,MG-I alpha, MG-I beta, MG-I gammaが突出して多く,MG-Iの約93%を占めていた.各点の群集構造を見ると,太平洋の観測点では,海洋表層 (0 – 200 m) でMG-IIが優占し,中層以深 (> 200 m) ではMG-Iが優占であった.さらに,MG-Iのサブグループについて見ると,表層でMG-I alphaの割合が多く,中層以深にはMG-I gammaの割合が多くなっていた.これらの深度による群集構造の違いは,おおむね既報の知見と一致しており,太平洋亜熱帯海域から北極まで広範囲に見られる特徴であることがわかった.しかし,北極海の一部では表層でもMG-Iが優占し,北太平洋亜熱帯海域の亜表層クロロフィル極大層にはMG-I betaが優占するなど,既報知見とは異なる分布パターンも見られ,さらに詳細な解析が待たれる.
以上本研究の結果,亜熱帯から亜寒帯海域,さらに北極海域まで,広範囲な海域における海洋性アーキアの群集構造が明らかとなった.特に,独自のデータベースを構築することにより,汎用のデータベースでは特定できないMG-Iのサブグループ分類が可能となった.これらのサブグループのうち,少なくともMG-I alpha, beta, gammaは生息深度や増殖至適温度の違いなどにより住み分けをしているエコタイプであると考えられるため,サブグループごとに群集構造を記述することは重要である.本研究で構築されたサブグループ同定用のデータベースを用いることにより,今後は様々な海域で包括的な群集構造解析を進めることができ,サブグループごとの分布の特徴が明らかになると期待される.