JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS31] [JJ] 近海・縁辺海・沿岸海洋で海洋学と古海洋学の連携を探る

2017年5月20日(土) 13:45 〜 15:15 303 (国際会議場 3F)

コンビーナ:磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)、木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)、座長:磯辺 篤彦(九州大学 応用力学研究所)、座長:加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)

13:45 〜 14:00

[AOS31-01] Bottom-upTop-down制御による海洋食物連鎖の平衡解

*磯田 豊1 (1.北海道大学大学院水産科学研究院)

キーワード:Bottom-up制御、Top-down制御、海洋食物連鎖、Volteraa式

1.はじめに
古海洋は専門外なので間違っているかもしれないが,古海洋研究では海底堆積物中の微化石や魚の鱗などの生物指標を用いることが多いように思う。また,対象とする時間スケールが千年〜万年単位の超長周期なので,下記に紹介する食物連鎖を考慮した生物指標の量的大小(変動)の議論に,どれだけ意味があるかはわからない。ただ,古代生物であっても子孫を生み続けて,進化して現在の海洋生態系まで繋がっているので,「食う-食われる」の捕食被食関係はあったはずと思う。そう願って,多段階(ここでは4段階)の食物連鎖を簡単な数理モデルで表現し,その平衡解を眺めながら,超長周期(古海洋時間スケール)の生態系応答を考えてみたい。
2.食物連鎖が4段階(4-Level)のVolteraa
Nは栄養塩(窒素など),Pは植物プランクトン,Zは動物プランクトン,Fは魚を示す各Stock量とし,単純なFlow項とLoss項で表現されるVolterra式は下記となる(Fig.1参照)。


dN/dt = – (αpP) N + (N0 – N)θ[t-n]/ta (n=1,2・・年) (1)


dP/dt = – (αz Z) P + (αp N) P – βp P   (2)


dZ/dt = – (αf F) Z + (αz P) Z – βz Z (3)


dF/dt = (αf Z) F – βf F (4)


ここで,αはFlow(同化)率,βはLoss(死亡)率を示し,θ[t-n]/taは年1回の春季ブルームを表現する関数である。


34-Level食物連鎖の平衡解


Flow率を簡単化のため同値(α=αpzf),θ=1を仮定し,各Levelの平衡(定常)解N*,P*,Z*,F*を求めると


Level-1  N* = (βf +βp)/α


Level-2  P* = (N0/(βf +βp)‐1/α)/ta


Level-3  Z* = βf


Level-4  F* = P*-βz


となる。これらの平衡解は興味深い性質をもつ。まず,全てのLevelのStockは最上位の捕食者(F)のLoss率βfに依存する。すなわち,FのLoss率βfが増加/減少すると,奇数番であるLevel-1(N*)と3(Z*)のStockは増加/減少するのに対し,偶数番であるLevel-2(P*)と4(F*)のStockは逆に減少/増加する。さらに,偶数番のLevel-2(P*)と4(F*)のみが,最下位の栄養塩N0の関数である。すなわち,偶数番LevelのStockのみ,N0が増加/減少すると増加/減少する。このように,偶数番と奇数番のLevelで異なった応答を示す性質は,食物連鎖のLevel数を変えても同じである。


この平衡解を用いて,近似的に超長周期の変動に対する生態系応答を推測してみよう。Top-down制御を最上位捕食者(F)のLoss率βfの変動と考えれば,[N,Z]と[P,F]はお互い逆位相の変動を示す。一方,Bottom-up制御を栄養塩供給量N0の変動と考えれば,[P,F]はNに同期した変動として現れるが,[Z]の変動がどうなるかはわからない。それゆえ,海洋生態系がTop-downとBottom-upの制御,いずれが支配的な状態なのかの診断は,Stockデータが示す[Z]と[N,P,F]の位相関係にある。講演では現代の北太平洋生態系を例に,どちらの制御にあるのかの診断を試みる。古海洋研究において,研究対象とした生物指標が古代食物連鎖のどの食物段階(Level)に位置しているかに依存して,環境変動と生物指標変動の位相関係が違ってみえるかもしれない?と夢想する。