JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS31] [JJ] 近海・縁辺海・沿岸海洋で海洋学と古海洋学の連携を探る

2017年5月20日(土) 13:45 〜 15:15 303 (国際会議場 3F)

コンビーナ:磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)、木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)、座長:磯辺 篤彦(九州大学 応用力学研究所)、座長:加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)

14:00 〜 14:15

[AOS31-02] 数値シミュレーションを用いた過去1万年間の東京湾の潮汐変化推定

*上原 克人1 (1.九州大学)

キーワード:完新世、古潮汐、数値シミュレーション、奥東京湾、海水準変動

1.はじめに
潮汐や潮流の影響が相対的に大きい沿岸域では、地質記録から古海水準や物理・生物環境を復元する上で、過去の潮汐に関する知見は大切な情報である。数値モデルを使った沿岸域古潮汐復元の試みは、カナダ・ファンディ湾を対象としたScott and Greenberg (1983)など、海外では多くの実施例があるが、日本では一次元モデルを使った大阪湾に関するTojo et al.(1999)以外にない。本研究では、東京湾における過去1万年間の古潮汐変動を二次元数値モデルにより推定した。

2.東京湾の地形変化
潮汐変化をもたらす最大の要因は、地形変化(水深と湾長)である。東京湾では、東木(1926)による古海岸線復元を端緒に地質情報に基づく古環境復元が数多く行われ、不十分ながら日本で最も古地形情報が得られている内湾の一つである。特にこの10年間、湾奥の東京低地・中川低地では高密度のボーリングコア情報を利用した詳細な古地形の復元が進められている(田辺、2013)。過去の知見によれば、東京湾は海面が低かった時代には干出していたが、約1万年前頃からの海面上昇に伴って海水が流入するとともに湾域が広がり、縄文海進期と呼ばれる約6~7千年前には海岸線が現在よりも陸側に70km前後後退していたと考えられている。

3.手法
本研究では、既存の地質解析の成果を利用して1万年前から4千年前までの古地形を千年ごとに復元し、二次元潮汐モデルと組み合わせることで、古潮汐を推定した。駆動源となる外洋潮汐は、全球古潮汐モデル(Uehara et al., 2006など)にて大きく変化していなかったことから、現世の値を用いた。

4.結果
数値計算を行った結果、東京湾の潮差は湾域の拡大とともに増大し、縄文海進期には湾奥の潮差が現在よりも52~93%増大していたと推定された。この値は、線形で摩擦を考慮しない解析モデルによる藤本(1990)の結果(現世の3倍の潮差)よりかなり小さいが、摩擦や詳細な地形を取り入れた分、今回の推計の方がより現実に近いと考えられる。さらに内湾域のタイダル・プリズムの増加に伴い、湾口の潮流流速の増加が認められた。潮流による海水交換の増加が、内湾の環境変化をもたらしていた可能性がある。強い潮流は、海面上昇が始まった時期にも見られ、湾内外に存在する完新世基底礫層の形成と関係していた可能性がある。

5.おわりに
物理的手法に基づく本研究結果は古地形や海水準など地質学的知見に大きく依存している一方、侵食のため地層が残っていない場所に関する情報など、地質解析の精度向上に還元できる部分も多々あると思われ、両者を組み合わせることで古環境復元の一層の精度向上に結びつくことが期待される。