JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS31] [JJ] 近海・縁辺海・沿岸海洋で海洋学と古海洋学の連携を探る

2017年5月20日(土) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)、木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)

[AOS31-P05] 完新世の気候変動に対する北西太平洋のイワシ類の応答

*加 三千宣1山本 正伸2竹村 恵二3池原 研4山田 圭太郎3石下 浩平5高松 裕子5杉本 隆成 (1.愛媛大学沿岸環境科学研究センター、2.北海道大学大学院地球環境科学研究院、3.京都大学大学院理学研究科、4.産業技術総合研究所地質情報研究部門、5.愛媛大学理学部)

キーワード:マイワシとカタクチイワシ、気候変動、完新世、北西太平洋

完新世の気候変動に対して、浮魚類はどのように応答してきたか?これを知ることは、長期的な温度変化に対する浮魚類の応答について貴重な情報をもたらすかもしれない。世界で最も漁獲されるイワシ類を対象に、完新世における個体数の長期変動を魚鱗堆積量によって明らかにした。その結果、日本マイワシの魚鱗堆積量は7000年前から3500年前に増加トレンド、3500年前から現在まで減少トレンドを示した。カタクチイワシは3500年前以前は魚鱗堆積量は少なく、それ以降徐々に増加し、マイワシとカタクチイワシの間で逆のトレンドを示した。マイワシとカタクチイワシの成長速度は、それぞれの最適水温16℃と22℃のユニモーダルな水温応答を示すことが報告されており、最適水温より数℃の高水温あるいは低水温による成長速度の低下が再生産を悪化させ、マイワシとカタクチイワシの個体数の劇的な資源崩壊や魚種交替を引き起こす。これを'optimal growth temperature'仮説(Takasuka et al., 2007)という。実際、1980年代後半以降太平洋十年規模振動に代表される気候変動によって生じる水温変動によってマイワシ個体数が約90分の1にまで低下し、カタクチイワシへの魚種交替が起こったことが知られている。
この仮説は、完新世の気候変動においても魚鱗記録で見られるマイワシ・カタクチイワシの長期トレンドを説明できるだろうか。20世紀後半のマイワシ増加期における産卵場(日本南岸)の水温は17℃程度で、最適水温よりもやや高い水温であり、マイワシレジームにおける1℃の水温低下はさらに仔魚の生残率が高くなることが期待される。ミランコビッチサイクルに伴う日射量強制あるいは日射量・温室効果ガス両方の放射強制を与えたモデル計算(Lorenz et al., 2006; Ohgaito et al., 2013)によると、仔魚が分布する黒潮続流域の海面水温は、冬季の推定で過去6000年間で0.7℃前後の増加トレンドを示しており、6千年前にはマイワシレジーム時の水温は最適水温に近かったことになる。したがって、過去6000年間、水温応答特性が変化しないと仮定すれば、個体数は6000年の間減少トレンドを示すはずだが、実際は3500年前までは増加トレンドを示し、その後減少トレンドを示している。この矛盾について幾つかの原因が考えられが、最も有力な原因の一つは、モデル計算における粗い空間解像度により、仔魚の生残にとって最も重要な黒潮続流の流軸とその北+0.5°の狭い範囲の水温の低下を過小評価している可能性が考えられる。1980年代のマイワシレジームでは17℃前後であったが、3500年前で今より1℃低下したとすれば現在よりも高い個体数を説明できる。また、6000年前に今より約2℃低下したとすれば、最適水温をさらに1℃下回るので、成長速度低下によってこの時の低い個体数を説明できる。一方カタクチイワシは現在のカタクチイワシレジームでは最適水温の22℃よりやや低い水温環境であるが、過去の温度の低下は成長速度の低下をもたらし、個体数を減少させる原因となったと考えれば、3500年前以降からの増加トレンドを説明できる。すなわち、どちらの長期トレンドも'optimal growth temperature'仮説によって説明できることになる。いずれにしても、マイワシやカタクチイワシに見られる長期トレンドの原因は、続流域の海面水温を決定する大気海洋過程の日射量変動に対する応答を高精度で解明することによって明らかになると考えられる。今後の海洋学と古海洋学の連携を期待したい。