JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-TT 計測技術・研究手法

[A-TT42] [JJ] 飛行艇を用いた臨床地球惑星科学の創成

2017年5月23日(火) 15:30 〜 17:00 301A (国際会議場 3F)

コンビーナ:角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)、植松 光夫(東京大学大気海洋研究所)、谷本 浩志(国立環境研究所)、篠原 宏志(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、座長:谷本 浩志(国立環境研究所)、座長:角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)

16:15 〜 16:30

[ATT42-04] 火山観測における飛行艇への期待

*篠原 宏志1 (1.産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)

キーワード:飛行艇、火山観測、火山ガス

飛行艇は、広範囲の海域において、空中および海上において機動的かつ柔軟な観測が可能であることが最大の特徴である。遠隔海域での噴火活動の緊急観測を実施するためには、下記に述べる飛行艇の持つ特徴が必要とされるため、飛行艇は海域における火山研究に様々な可能性を拓くと期待される。
 噴火などの突発的な災害の発生時においては、発生の初期の段階から、現象とその推移を把握することが災害への対策のためにも、地球科学研究のためにも必要であり、早急な初動観測調査が必要とされる。同時に、災害発生時の初動観測においては、二次災害を防ぐために事前の状況把握のための予備観測も必要である。通常海域での噴火活動では、航空機による観測により状況を把握したのちに、船舶を用いた観測が初めて実施可能となる。飛行艇では、空中からの状況把握ののち、速やかに海上での観測作業を実施することができるため、火山噴火のみならず様々な海域における突発災害などの迅速な初動調査に最適である。
 私自身は、火山観測の中で火山ガスの組成および放出量の観測に主に従事しているが、比較的低速で様々な高度を飛行可能な飛行艇はこれらの観測にも適している。現状では航空機を用いた火山ガス観測は、通常のセスナ機などを借り上げて実施しているが、航空法の定めにより観測機器の設置は機内に限られており、観測条件に制限がある。最適な観測条件を得るためには、機体の改造を含めた観測機器の設置などの条件をあらかじめ整備することが望ましい。地球科学観測を目的とした飛行艇の整備により、最適条件での観測の実施が期待される。また、大型飛行艇は航続距離が4,500kmと長いため、遠隔地での観測も可能である。例えば、2013年に噴火を再開した西ノ島は東京から約1,000kmの距離にあるため、セスナ機などでは観測が不可能であったが、飛行艇では可能である。
 飛行艇の最大の特徴は着水作業が可能な点である。海域の火山の観測調査においては、通常は船舶を用いて、海底地震計の設置などの機器の設置、海水や海上浮遊物の採取、ゴムボートなどを用いた上陸作業などが行われるが、これらの作業を飛行艇から行うことは可能である。船舶に比較して、飛行艇の移動速度は速いため迅速に現場作業を開始できること、着水前の空中からの目視観測により直前の状況判断が可能であること、作業中に危険が検知された場合には迅速に現場から離脱できるなどの利点がある。特に連続観測機器の設置は、火山活動推移の把握に不可欠である。西ノ島噴火の場合は、当初は活動推移の把握は、ジェット機による繰り返しの目視観測結果に依存しており、定量的な推移の把握や詳細な変化の検知が困難であった。その後、130km離れた小笠原での空振連続観測により噴火の頻度変化などが把握されたが、海底地震計が西ノ島周辺に設置され地震活動の観測が行われたのは2015年になってからであった。海底地震計などによる連続観測データは、活動推移を定量的に評価するために必要なだけでなく、噴火過程などの理学的理解を行う上でも不可欠なデータである。最近では、海底地殻変動の観測手法も実用化している。また、波の力だけで自律的に海面を運航することができるウェーブグライダーを用い。遠望観測や地震・空振観測を行い、データを衛星通信によりリアルタイムに伝送する手法の開発も進められている。将来、これらの装置を用いて海域の火山活動に関しても様々な種類の連続データをリアルタイムで取得し、地上の火山と同様に噴火機構の解明や噴火活動推移評価を行うことが可能となるであろう。火山活動活発化後に迅速にこれらの装置を周辺海域に展開するためには、飛行艇の活用が不可欠である。その実現のためには、これら観測手法の開発と並行して、飛行艇を用いた観測手法の開発も進めることが望まれる。