JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-TT 計測技術・研究手法

[A-TT42] [JJ] 飛行艇を用いた臨床地球惑星科学の創成

2017年5月23日(火) 15:30 〜 17:00 301A (国際会議場 3F)

コンビーナ:角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)、植松 光夫(東京大学大気海洋研究所)、谷本 浩志(国立環境研究所)、篠原 宏志(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、座長:谷本 浩志(国立環境研究所)、座長:角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)

16:30 〜 16:45

[ATT42-05] 飛行艇を利用した海水採取とマントル起源同位体検出による海底火山活動の迅速診断

*角野 浩史1角皆 潤2鹿児島 渉悟3川名 華織1森 俊哉4大場 武5 (1.東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系、2.名古屋大学大学院環境学研究科、3.東京大学大気海洋研究所、4.東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設、5.東海大学理学部化学科)

キーワード:同位体、ヘリウム、海底火山、飛行艇、揮発性元素

海底火山の噴火は、近隣の島に生活する人々や、付近を航行する船舶に重大な被害をもたらす可能性がある。また噴火時でなくても、海上まで達する大規模なガスプルームを熱流体とともに定常的に放出している火山もあり[1]、これらのような地球深部からの熱流体の放出は、海洋環境に大きな影響を及ぼしていると考えられている。したがって海底火山の活動を把握することは、地球惑星科学だけでなく防災の観点からも重要である。しかし海底火山の活発化に伴う熱流体の大規模放出は、表層海水の変色域として観測されることはあるものの、実際に海底で起こっている事象を海上で把握することは容易ではない。有人あるいは無人の潜水艇による熱流体噴出孔への接近は、潜水艇とその母船に重大なリスクを背負わせることとなるし、海底地震計も全ての海底火山周辺に整備されているわけではないため、海底火山の近傍から迅速かつ安全に試料を採取し、物質的証拠から活動の活発化を評価する新たな手法が望まれる。
海底の熱水噴出孔などから放出される熱流体に含まれる揮発性成分のなかでもヘリウムは、流体とともに海底火山の上方に拡散するが、海水に含まれている成分と、熱流体に含まれるマントル起源成分、すなわちマントルヘリウムで明瞭に同位体比が異なるために、例えば中央海嶺上では、1000 km以上もの広い範囲にわたりマントルヘリウムが拡散していることが観測されている[2]。海洋におけるマントルヘリウムの分布から、地球内部からのヘリウムの脱ガス量を見積もることも行なわれており[3]、さらに3Heに対する比をもとに、他の揮発性成分の脱ガス量へも制約が加えられている[4]。ヘリウムは化学的に不活性であるため、温度、圧力、pHなど環境の物理化学的条件によって同位体比が変化することはなく、また海水中の濃度が10 ppt以下と極めて低いこと、さらにマントルヘリウムと海水溶存ヘリウムで同位体比(3He/4He比)が一桁程度異なることから、海中への熱流体放出に非常に敏感かつ確実性の高いトレーサーとして用いることができる。
そこで本発表では、飛行艇による海水サンプリングと3He/4He比分析による海底火山活動の迅速診断を提案する。電気伝導度・水温・水深計(Conductivity Temperature Depth profiler: CTD)と、ニスキン採水器ないしホースを用いた100 mを超える深度のサンプリングはルーチンで行なわれているので[5, 6]、海上で海水変色域や発泡が認められた海域に飛行艇で急行し、速やかに深さ方向の多点サンプリングを行なう。飛行艇の機動性を活かして翌日には実験室にて3He/4He比分析を行ない、マントルヘリウムが放出されているか否か、すなわち新たな熱流体の放出があるかを迅速に調べる。海上で活動が顕著に観察されず、飛行艇が現場海域に比較的長時間留まっても問題ない場合には、採水位置を変えて複数の深度プロファイルを取り、マントルヘリウムの分布を3次元的にとらえ、その総放出量から脱ガスに関与したマグマの規模を推定する。
ヘリウムだけでなく、海水に溶存している二酸化炭素やメタンの炭素同位体比、窒素の同位体比なども溶存揮発性成分の起源について重要な制約となる[1]。演者らは火山ガスや温泉ガス、土壌ガスの同位体比をもとに火山活動度をモニターし、噴火の切迫性を評価する技術の開発を「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」(http://www.kazan-pj.jp/)の一環として推進しており、多種の揮発性成分同位体比分析を行える態勢の構築や、海底火山近傍の底層水の採取と分析技術、高スループットの3He/4He比分析システムの開発を進めている。また可搬型の質量分析計の開発[7]や、近年普及が急速に進んでいる分光型同位体分析計[8]の導入により、フィールドのその場(オンサイト)での同位体比分析も可能にすることも目指している。これらの新たな分析技術と、飛行艇による機動的サンプリングを組み合わせ、地球の脱ガス史や海洋環境の変動要因の理解を進めるなどの地球惑星科学的な貢献だけでなく、海底火山の活動度を迅速に診断することで防災に寄与したいと考えている。

[1] Wen et al., Sci. Rep. 2016. [2] Lupton & Craig, Science 1981. [3] Bianchi et al., EPSL 2010. [4] Kagoshima et al., Geochem. J. 2012. [5] Nishimura et al., Geochem. J. 1999. [6] Notsu et al., J. Volcanol. Geotherm. Res. 2014. [7] Jensen et al., JpGU-AGU Joint Meeting 2017. [8] Rizzo et al., Geophys. Res. Lett. 2014.