14:30 〜 14:45
[BCG10-04] 南アフリカ・バーバトン緑色岩帯ムーディーズ層群の32億年前の縞状鉄鉱層中の鉄鉱物に伴う有機物の地球化学的特徴と微細構造観察
キーワード:縞状鉄鉱層、バーバトン緑色岩帯、有機物
縞状鉄鉱層は鉄鉱物と珪酸塩鉱物の互層からなる化学堆積岩である。大酸化イベント以前の縞状鉄鉱層の形成プロセスについては未だ明らかになっていない。これを説明するために、以下の二つの仮説が提案されている。一つは既にシアノバクテリアが生息しており光合成で発生した遊離酸素により鉄が酸化されたとする説、もう一つは鉄酸化細菌による酸化が起こったとする説である。どちらの説も微生物活動が関与しており、岩石中に残された有機物の産状からそのプロセスを推定できる可能性がある。しかしながら鉄鉱層中の有機物含有量は一般的に低く、研究例が少ない。本研究では、約32億年前に形成された南アフリカ・バーバトン緑色岩帯ムーディーズ層群の浅海性縞状鉄鉱層を対象として、当時の海洋表層における微生物活動に制約を与えることを目的とした。試料採取はシェバ金鉱山坑道内で行い、主要鉄鉱物の種類と鉄含有量からMTタイプ(磁鉄鉱に富む砂岩、13-50 wt% Fe2O3)、SDタイプ(磁鉄鉱に乏しいシルト質砂岩、10-30 wt% Fe2O3)の2タイプに分類した。MTタイプは自形の磁鉄鉱や石英に富む層と黒雲母や緑泥石などの珪酸塩鉱物に富む層の互層から成る。SDタイプは主に菱鉄鉱や鉄苦灰石などの炭酸塩鉱物が卓越しており、粒径の大きい炭酸塩・石英に富む層と緑泥石や黒雲母に富む層の互層からなるSD-1、粒径の小さい石英、緑泥石、黒雲母からなり,葉理が不明瞭なSD-2に分類できる。
採取試料の有機炭素含有量は0.03-0.29wt%であった。代表的な試料の研磨片及び酸処理抽出試料を用いて、走査型電子顕微鏡による炭素質物質の観察を行った。観察された炭素質物質は大部分が直径20μm程度の円形ないし楕円形に近い鱗片状の概形を示し、表面部分は皺を持つ薄膜状組織からなる様子がしばしば観察された。これら試料の有機炭素安定同位体比は–26〜–28‰の値を示したことから、炭素質物質は微生物起源である可能性が考えられる。Javaux et al. (2010)は本研究と層序が近い泥岩中に微化石様構造を発見しており、楕円形で表面に皺のある構造は本研究の観察結果と一致するが、粒径分布 (31-298μm)は大きく異なる。また、酸処理抽出された炭素質物質のN/C比は0.002であり、変成度の近い他の太古代岩石中のケロジェンの値と整合的であった。この抽出試料の顕微ラマン分光分析結果から算出された炭素質物質が経験した変成温度は約500℃と、想定されるよりもやや高温であり、後の金鉱化作用に伴う流体が炭素質物質の構造に影響を及ぼした可能性がある。さらに、全試料において試料中の有機炭素含有量が増加するにつれて鉄含有量は減少する傾向がみられた。一方、炭酸塩炭素含有量と鉄含有量は正の相関を示した。SD-1試料の大部分は、炭酸塩炭素含有量と鉄含有量の比が菱鉄鉱中の炭素/鉄比よりも高い値を示した。またMTおよびSD-1試料の炭酸塩炭素の安定同位体比は約–4‰で、近隣鉱山の鉱化流体由来の炭酸塩炭素の値と整合的であった。このことからSD-1試料は流体沈殿による菱鉄鉱以外の炭酸塩鉱物が卓越していたことがわかった。
縞状鉄鉱層の有機物は鉄鉱物との反応で消費され、磁鉄鉱や菱鉄鉱を生成する可能性があるため(Perry et al., 1973, Kohler et al., 2013)、生物由来炭素からの炭酸塩鉱物の生成が予想される。しかしながら炭酸塩の炭素安定同位体比から、MT試料の炭酸塩鉱物は流体由来と考えられる。またMT試料中の有機炭素含有量は0.03-0.26wt%と比較的高い値を示した。SD-2試料では有機炭素に富むが鉄に乏しく、炭酸塩炭素量が少ないため有機物の菱鉄鉱への変質は進まなかったと考えられる。このことから、生物由来有機物が続成・変成作用中に消費された量は少なく、本試料に見られる有機炭素量と鉄含有量との負の相関は初生の傾向である可能性が高い。Kohler et al. (2013)は縞状鉄鉱層に関与する微生物活動について、鉄酸化細菌は有機物と鉄を一定の比で沈殿させるのに比べ、シアノバクテリアは有機物をより多く沈殿させるという仮説を提唱した。この仮説を本研究結果に適用すると、炭素に富み鉄に乏しいSD-2試料はシアノバクテリア、炭素に乏しく鉄に富んだMT試料は鉄酸化細菌の活動を反映している可能性がある。以上のことから、ムーディーズ層群が形成された32億年前の沿岸部の海洋表層ではシアノバクテリアが繁茂し、遊離酸素に酸化された鉄に比べ有機物が多く沈殿したのに対して、遠洋域では海底熱水から供給された二価鉄を得て鉄酸化細菌が生息し、有機物に対し鉄を過剰に沈殿させることで縞状鉄鉱層が形成されたと考えられる。
採取試料の有機炭素含有量は0.03-0.29wt%であった。代表的な試料の研磨片及び酸処理抽出試料を用いて、走査型電子顕微鏡による炭素質物質の観察を行った。観察された炭素質物質は大部分が直径20μm程度の円形ないし楕円形に近い鱗片状の概形を示し、表面部分は皺を持つ薄膜状組織からなる様子がしばしば観察された。これら試料の有機炭素安定同位体比は–26〜–28‰の値を示したことから、炭素質物質は微生物起源である可能性が考えられる。Javaux et al. (2010)は本研究と層序が近い泥岩中に微化石様構造を発見しており、楕円形で表面に皺のある構造は本研究の観察結果と一致するが、粒径分布 (31-298μm)は大きく異なる。また、酸処理抽出された炭素質物質のN/C比は0.002であり、変成度の近い他の太古代岩石中のケロジェンの値と整合的であった。この抽出試料の顕微ラマン分光分析結果から算出された炭素質物質が経験した変成温度は約500℃と、想定されるよりもやや高温であり、後の金鉱化作用に伴う流体が炭素質物質の構造に影響を及ぼした可能性がある。さらに、全試料において試料中の有機炭素含有量が増加するにつれて鉄含有量は減少する傾向がみられた。一方、炭酸塩炭素含有量と鉄含有量は正の相関を示した。SD-1試料の大部分は、炭酸塩炭素含有量と鉄含有量の比が菱鉄鉱中の炭素/鉄比よりも高い値を示した。またMTおよびSD-1試料の炭酸塩炭素の安定同位体比は約–4‰で、近隣鉱山の鉱化流体由来の炭酸塩炭素の値と整合的であった。このことからSD-1試料は流体沈殿による菱鉄鉱以外の炭酸塩鉱物が卓越していたことがわかった。
縞状鉄鉱層の有機物は鉄鉱物との反応で消費され、磁鉄鉱や菱鉄鉱を生成する可能性があるため(Perry et al., 1973, Kohler et al., 2013)、生物由来炭素からの炭酸塩鉱物の生成が予想される。しかしながら炭酸塩の炭素安定同位体比から、MT試料の炭酸塩鉱物は流体由来と考えられる。またMT試料中の有機炭素含有量は0.03-0.26wt%と比較的高い値を示した。SD-2試料では有機炭素に富むが鉄に乏しく、炭酸塩炭素量が少ないため有機物の菱鉄鉱への変質は進まなかったと考えられる。このことから、生物由来有機物が続成・変成作用中に消費された量は少なく、本試料に見られる有機炭素量と鉄含有量との負の相関は初生の傾向である可能性が高い。Kohler et al. (2013)は縞状鉄鉱層に関与する微生物活動について、鉄酸化細菌は有機物と鉄を一定の比で沈殿させるのに比べ、シアノバクテリアは有機物をより多く沈殿させるという仮説を提唱した。この仮説を本研究結果に適用すると、炭素に富み鉄に乏しいSD-2試料はシアノバクテリア、炭素に乏しく鉄に富んだMT試料は鉄酸化細菌の活動を反映している可能性がある。以上のことから、ムーディーズ層群が形成された32億年前の沿岸部の海洋表層ではシアノバクテリアが繁茂し、遊離酸素に酸化された鉄に比べ有機物が多く沈殿したのに対して、遠洋域では海底熱水から供給された二価鉄を得て鉄酸化細菌が生息し、有機物に対し鉄を過剰に沈殿させることで縞状鉄鉱層が形成されたと考えられる。