JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT04] [EJ] 化学合成生態系の進化をめぐって

2017年5月21日(日) 09:00 〜 10:30 106 (国際会議場 1F)

コンビーナ:ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域自然システム学系)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)、延原 尊美(静岡大学教育学部理科教育講座地学教室)、間嶋 隆一(国立大学法人横浜国立大学教育人間科学部)、座長:ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域自然システム学系)、座長:渡部 裕美(海洋研究開発機構)

09:30 〜 09:45

[BPT04-03] メタン酸化古細菌のバイオマーカー炭素同位体比による古冷湧水メタンの起源推定

*宮嶋 佑典1,3渡邊 裕美子1井尻 暁2後藤(桜井) 晶子3ジェンキンズ ロバート3長谷川 卓3坂井 三郎4松本 良5 (1.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地質学鉱物学分野、2.海洋研究開発機構高知コア研究所、3.金沢大学理工研究域自然システム学系、4.海洋研究開発機構生物地球化学研究分野、5.明治大学ガスハイドレート研究所)

キーワード:メタン、冷湧水、バイオマーカー、新生代、日本海

メタンは有機物の微生物分解または熱分解により生成し,その起源はメタンの炭素安定同位体比などから推定できる.海洋へのメタンの主要な放出場であるメタン湧水では,湧出するメタンの起源を知ることで海底下の生物地球化学プロセスや水循環について知ることができる.地質時代の古メタン湧水は,微生物が起こす嫌気的メタン酸化によって形成されたメタン起源炭酸塩岩として地層中に保存される.メタン起源炭酸塩岩はメタン由来の炭素を引き継いでいるが,形成時に海水中の溶存無機炭素などメタン以外の炭素も取り込むため,炭酸塩岩の炭素同位体比から過去に湧出していたメタンの同位体比を推定することは難しい.本研究では,メタンの同位体組成をより直接反映していると考えられるメタン酸化古細菌の脂質バイオマーカーの炭素同位体比をもとに,古メタン湧水のメタンの起源推定を試みた.分析には日本海側陸域11か所の下部中新統~中部更新統より採集した古メタン湧水炭酸塩岩と,上越沖海底の熱分解メタンの湧出域で採取された現世の炭酸塩ノジュールを用いた.すべての炭酸塩の初生的な組織は−64.7~−4.7‰(vs. VPDB)の幅広いδ13C値を示し,微生物または熱分解メタンの両方が起源として考えられる.古メタン湧水炭酸塩岩より抽出したバイオマーカーであるペンタメチルイコサン(PMI)はほとんどが−100‰より低いδ13C値を示したのに対し,上越沖の現世炭酸塩ノジュールから抽出したPMIは−80‰というより高いδ13C値を示した.上越沖で湧出するメタン(−36‰)と炭酸塩中のPMIとの炭素同位体分別は−44‰であり,この分別が過去も同じであったと仮定すると,対象とした日本海側地域の古メタン湧水ではδ13C値が−50‰より低い微生物起源のメタンが湧出していたと推定できる.このことは,対象とした古メタン湧水では海底下浅部で生成したメタンが供給されており,断層などの経路を通じた深部起源の熱分解ガスの海底への湧出はなかった可能性を示唆する.過去の湧水中のメタンの同位体組成をより制約するため,炭酸塩中に残留しているメタンを抽出する試みも進行中である.今後は炭酸塩の微量元素組成などの流体の起源指標と合わせて,古メタン湧水のメタンの起源を推定する必要がある.