JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT05] [EJ] 地球史解読:冥王代から現代まで

2017年5月23日(火) 15:30 〜 17:00 201B (国際会議場 2F)

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源研究開発センター)、座長:浅沼 尚(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)

15:45 〜 16:00

[BPT05-08] 西オーストラリア・ピルバラ地域デキソンアイランド層における32億年前の重晶石および黄鉄鉱硫黄同位体不均質

*三木 翼1清川 昌一1高畑 直人2石田 章純3伊藤 孝4池原 実5佐野 有司2 (1.九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻、2.東京大学大気海洋研究所、3.東北大学大学院理学研究科、4.茨城大学教育学部、5.高知大学海洋コア総合研究センター)

キーワード:太古代、硫黄同位体、黄鉄鉱、重晶石

中期太古代(32~28億年前)は還元的大気海洋環境の遷移的酸化を示す大規模縞状鉄鉱層の形成(Windley, 1995)など多くの地球史上重要なイベントがあった時代として知られている。当時の硫黄サイクルや酸化還元環境を知る上で硫黄の安定同位体比(δ34S(‰)=((34S/32S)sample/ (34S/32S)standard-1)×1000)は重要なプロキシである。各硫黄化学種のδ34Sはマントルや海洋などのリザーバーごとに大局的な平衡状態にある。しかし局所的にそれらが混合することや酸化還元反応により化学種が変わることで値は大きく変化し、とくに還元性物質である硫化鉱物および酸化性物質である硫酸塩鉱物のδ34S変動は酸素濃度上昇や硫酸還元菌の活動活発化と密接に関わっていると考えられる。近年の微小領域高精度の分析法の向上により詳細な変化を識別できるようになったことから、本研究では32億年前の堆積物に注目し、西オーストラリア州ピルバラ地域のデキソンアイランド層中にわずかに残存する重晶石および黄鉄鉱について高空間分解能二次イオン質量分析計(NanoSIMS)によるδ34S微小領域分析を行った。
 デキソンアイランド層は下位からコマチアイト-流紋岩質凝灰岩部層、黒色チャート部層、多色チャート部層からなる。多色チャート部層中の黄鉄鉱試料について、DXCL掘削により得られた未風化黄鉄鉱試料は数mmから1mm以下の非常に細かなラミナを成し、δ34S値は-10.1~+26.8‰(n=143; Avg. = +8.9‰)(坂本, 2010MS)、初期にできた微小球殻状黄鉄鉱内でも10μmで5~10‰の同位体変化が見られる(三木, 2015MS)。
 また、重晶石層はデキソンアイランド層黒色チャート部層の下部に5~8層残っているが全体に珪化しており、珪化を免れた重晶石が200μm以下の結晶としてごくわずかに保存されている。また重晶石が結晶形を保って珪化した偽晶は非常に細粒の黄鉄鉱を含む。この地層から3層準を選んで岩石試料を採取し、粒界粉砕により重晶石29粒および付随する黄鉄鉱19粒を取り出してNanoSIMS分析を行った。その結果、重晶石からは-7.1±1.0~+18.7±0.9‰ (Avg. = +0.4±1.3‰) という値が得られた。一方、共出した黄鉄鉱は+2.1 ± 2.0 〜 +22.3 ± 5.9 (Avg. = +11.4 ± 2.8‰)であった。
 堆積物中で硫酸還元菌が関与した場合,最終生成物である黄鉄鉱のδ34Sは負の値を取ることで知られているが、本研究ではほとんど差がなく、むしろ黄鉄鉱が重い値を持った。最近の研究では32億年前の硫黄同位体の値は高い値をとっており、硫酸還元菌が関与しない反応経路もしくは火山活動などの外からの流入が考えられる。またレイリー分別により正にシフトすることはラグーンや全球凍結等硫酸供給が閉じた環境を意味するため、δ34S値が高くなる原因を識別することが重要になる。