JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT05] [EJ] 地球史解読:冥王代から現代まで

2017年5月24日(水) 09:00 〜 10:30 201B (国際会議場 2F)

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源研究開発センター)、座長:松浦 史宏(東京工業大学理工学研究科地球惑星科学専攻)

10:00 〜 10:15

[BPT05-17] 白亜紀セノマニアン/チューロニアン境界のOAE2に対する南半球高緯度の反応

*長谷川 卓1牟田 宗一郎2後藤(桜井) 晶子1クランプトン ジェームス3 (1.金沢大学自然システム学系、2.金沢大学大学院自然科学研究科(現・石油天然ガス金属鉱物資源機構)、3.ニュージーランド地質調査所)

キーワード:白亜紀、セノマニアン、チューロニアン、OAE

白亜紀セノマニアン/チューロニアン(C/T)期境界では,短期間に大量の有機物が広範囲の海底に堆積する「海洋無酸素事件(OAE)2」と呼ばれるイベントが生じたことが知られている.このイベントは顕生代において重要な炭素循環の攪乱イベントと考えられ,テチス域および大西洋域の大陸海を中心に多くの研究がなされてきた.このOAE2期に相当する層位範囲では有機物および炭酸塩の炭素同位体比に特徴的な正のエクスカーション(CIE)がみられることが知られており,炭素同位体比層序による国際対比がなされてきた.しかしながら白亜紀当時の海洋の大半を占めていた太平洋域がOAE2にどのように反応したのかについての知識は乏しい.
本研究では南太平洋高緯度域の海域・陸域にその炭素循環の攪乱の影響がいかに現れるかを理解するため,C/T階境界上下の堆積岩から得られた抽出性有機物に関する総括的な研究を行った.試料を採集した露頭はニュージーランド南島のマルボロ地区である.
バイオマーカー分析から明らかになったホモホパンインデックス(HHI)は世界の他地域のOAE2相当層準付近には知られていない周期的な増減変動を示し,この堆積場の酸化還元環境が周期的に富酸素-貧酸素環境を繰り返していたことを示唆する.OAE2の最初期段階では強い酸素欠乏が生じ,その後急速に酸化的環境に移行した.ステラン/ホパン(S/H)比はこれとほぼ同期して大きく低下したが,HHIの低下(海底の富酸素化)より約10万年程度遅れて生じた.この真核生物由来バイオマーカーの減少は海洋有機物の海底への輸送量の低下,すなわち生物生産の減少を示唆している.海底に到達する有機物が減少することが海底の酸素消費量を減らすことに連動して貧酸素環境から富酸素環境へのシフトを誘導したという考察は,酸化的環境に移行するタイミングが生物生産減少に先行していることを説明できない.酸素に富む水塊の流入が海洋の富酸素化を誘導したという解釈が,上述のOAE2層準のバイオマーカー変動を最も良く説明できるようだ.
OAE2層準における陸域由来の多環芳香族分布は,高緯度南太平洋域において,OAE2直前まで徐々に自然火災を引き起こしやすい気候が卓越していくことを示していた.その後CIEの開始と共にその自然火災頻度は減少し,OAE2期全般に渡ってその頻度は低かったと解釈される.球果植物由来のジテルペノイドと多様な植物に由来するカダレンを用いた高等植物指標はOAE2前後の層準を含めて全体として低下していく傾向を示したが,特にOAE2層準では低い値を示した.このことはOAE2層準では植物群集の中で球果植物が減退していたことを示唆する.
海洋と陸域の環境を示唆するバイオマーカー指標等から,南半球高緯度太平洋域において海洋,陸域の双方で深刻な生息環境の変化が示唆された.この地のOAE2期における環境変化はテチス域およびその他の地域のそれとはどことも似ておらず,OAE2のメカニズムが従来考えられていたよりも複雑であることを示している.