JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT06] [JJ] 地球生命史

2017年5月20日(土) 10:45 〜 12:15 201B (国際会議場 2F)

コンビーナ:本山 功(山形大学理学部地球環境学科)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)、座長:守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)、座長:生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、座長:本山 功(山形大学理学部地球環境学科)

10:45 〜 11:00

[BPT06-07] 始新世の温暖化イベント時における光共生性浮遊性有孔虫の動態

*内藤 陸1高木 悠花2守屋 和佳1,3後藤(桜井) 晶子4長谷川 卓4 (1.早稲田大学 創造理工学研究科 地球・環境資源理工学専攻、2.東京大学 大気海洋研究所、3.早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修、4.金沢大学 理工研究域 自然システム学系 )

キーワード:浮遊性有孔虫、光共生、始新世、温暖化イベント、化石群組成

中生代ジュラ紀中期に出現し,現在まで繁栄を続ける浮遊性有孔虫は,その進化の過程において光共生生態を獲得し,現生浮遊性有孔虫の一部の種も細胞内に渦鞭毛藻や黄金色藻などの藻類を共生させる.浮遊性有孔虫にとっては,藻類の光合成による光合成産物が供給されることで栄養の獲得を強化し,遠洋の貧栄養な海洋表層にも生息が可能となっている.一般に共生する藻類の光合成は,宿主の石灰化を促進すると言われており,共生藻類は栄養の供給のみならず,殻の形成という観点でも重要な役割を担っている.現生のサンゴなどの研究では,この藻類と炭酸塩硬組織を構成する生物との共生関係は,海洋の温暖化の影響を大きく受け,場合によっては温暖化によって共生関係が崩壊することが報告されている.地球史においても,温暖化気候状態の時期には,同様の事象がおきていたと考えられ,古第三紀始新世の温暖化イベントの一つであるMiddle Eocene Climatic Optimum (MECO; ~40Ma) では,海水温の上昇に伴う光共生性浮遊性有孔虫の相対存在量の減少が報告されている(Edgar et al., 2013).このように地球史における温暖化イベントは,光共生の浮遊性有孔虫多様性や存在量に影響を与えていると考えられるが,温暖化による光共生の浮遊性有孔虫の個体数の変動のメカニズムや各属の反応の違いなどの詳細については未解明な点が多い.

そこで本研究では,始新世中期に発生した温暖化の極大期における浮遊性有孔虫の群集組成解析を行い,温暖化による光共生性浮遊性有孔虫の多様性と存在量の変動を議論する.対象とした試料は統合国際深海掘削計画第342次航海において,北大西洋のNewfoundland沖(Site U1407)より得られた,45〜50Maの堆積物である.本地域においては,始新世中期に堆積物中の炭酸塩含有量の減少が確認されており,温暖化が生じていたことが示唆されている.本試料の全岩の炭酸塩の炭素・酸素同位体比を測定したところ,この炭酸塩含有量の減少と同時に酸素同位体比の減少,すなわち温暖化が生じていたことが確認された.この炭酸塩含有量の減少は,炭酸塩補償深度の浅化を反映していると推測される.さらに,この堆積物中の炭酸塩含有量の減少の前にも2回の温暖化が生じており,短い間に3回の温暖化イベントがあり,より若い時代の温暖化イベントは堆積物中の炭酸塩含有量の減少を伴うようなイベントであったことが明らかになった.この3つの温暖化イベント時における浮遊性有孔虫の化石群解析を行ったところ,最初の温暖化時に浮遊性有孔虫全体のフラックスが減少し,2回目の温暖化時には大きな変動はないものの,炭酸塩含有量の減少を伴う3回目の温暖化時にはフラックスが増大していることが明らかになった.フラックス減少時には,光共生性の種も,非共生性の種も同時に減少しており,海洋の混合層から躍層以深までの全体の変化を示していると考えられる.全岩の炭酸塩の炭素同位体比も同時に減少していることから,これは一次生産量の減少に起因すると推測される.その後,低フラックス状態が持続し,3回目の温暖化イベント時には表在性の光共生種であるMorozovellaMorozovelloidesのフラックスがさらに減少し,非共生種のフラックスの増大が認められた.これは,温暖化イベントに対して光共生種が大きく影響を受けたことを示しており,温暖化に起因する光共生系の崩壊を示している可能性がある.一方,同じ光共生種であるAcarininaのフラックスは増大していることが示された.Pearson et al.(2001)では,AcarininaMorozovellaは混合層のほぼ同じ水深に生息していることが示されており,両者の違いは光共生系そのもの,あるいは光共生系への依存度の違いなどを示している可能性がある.