JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT06] [JJ] 地球生命史

2017年5月20日(土) 10:45 〜 12:15 201B (国際会議場 2F)

コンビーナ:本山 功(山形大学理学部地球環境学科)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)、座長:守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)、座長:生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、座長:本山 功(山形大学理学部地球環境学科)

12:00 〜 12:15

[BPT06-12] 深海熱水噴出域固有動物の海洋表層分散

*矢萩 拓也1樋口 富彦1白井 厚太朗1渡部 裕美2Anders Warén3小島 茂明1狩野 泰則1 (1.東京大学大気海洋研究所、2.海洋研究開発機構、3.スウェーデン自然史博物館)

キーワード:生物地理、初期生態、幼生分散、鉛直移動、表層水温

深海熱水噴出域に生息する動物種の多くは底生である。従って、浮遊幼生期の分散が種の地理的分布を決定し、また個体群の維持に重要な役割を果たす。熱水性動物の幼生は卵黄栄養型とプランクトン栄養型に二分でき、前者は深層で分散すると考えられている。一方、後者は孵化後に中層まで鉛直移動し摂餌・分散するとされる。演者らは、世界の熱水噴出域に生息するシンカイフネアマガイ亜科の腹足類について、種分類体系の構築、地理的分布の把握、集団遺伝解析、幼生飼育実験および同位体化学分析を行った。その結果、深海熱水噴出域の固有動物が、植物プランクトン食の浮遊幼生として有光層まで鉛直移動し、表層流により長距離分散することを初めて明らかにした。種分類、地理的分布と集団構造: 太平洋・インド洋・大西洋で採集された1,000個体以上のシンカイフネアマガイ類標本について、形態および分子情報の対比を行い、既知6種と未記載の11種を含む計17種に分類した。また、多くの種が広域分布(< 3,200 km)を示し、その分布全域にわたり任意交配集団を形成することを明らかにした。幼生飼育実験: 伊豆—小笠原島弧と沖縄トラフに分布するミョウジンシンカイフネアマガイについて、半年間の幼生飼育実験と行動観察を行った。同幼生は孵化後継続的に上昇遊泳し、また生残・成長の至適水温は種の地理的分布域における表層水温と一致した。幼生期は1年以上に及び、その間、表層流により長距離分散することが示唆された。同位体比分析: シンカイフネアマガイ類の着底稚貝における貝殻酸素同位体比によっても、表層水温中での幼生殻形成、すなわち個体発生に伴う表層への鉛直移動が支持された。
上記に加え、熱水域固有の甲殻類についても集団遺伝解析を実施し、プランクトン栄養幼生の表層分散が熱水動物において一般的な事象である可能性を示した。以上の結果は、表層水温が、深海熱水噴出域に固有な動物種の地理的分布を規定する一要因であることを示唆する。これは熱水動物の生態・進化に関わる全く新たな仮説であり、光合成生態系—熱水噴出域生態系間の物質循環の観点からも極めて興味深いと考える。