JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EE]Eveningポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG46] [EE] 衛星による地球環境観測

2017年5月20日(土) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[ACG46-P06] ひまわり8号による降雨推定精度の季節・地域依存性

*広瀬 民志1樋口 篤志2妻鹿 友昭3牛尾 知雄3山本 宗尚1重 尚一1濱田 篤4 (1.京都大学理学研究科、2.千葉大 CEReS、3.大阪大学工学研究科、4.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:Himawari-8, GPM, machine learning, rain estimation

広域・高時間分解能の降水観測データを得るために,マイクロ波放射計搭載衛星による高精度降雨観測は非常に重要である.しかしマイクロ波衛星は台数が限られているため短時間で全球をカバーすることはできない.そのようなマイクロ波観測の利用できない場所では,静止気象衛星から得られた高時間分解能の降水関連情報を用いることで降雨推定精度の向上が期待できる.Kühnlein et al. (2014) はMETEOSAT第二世代の静止気象衛星(MSG-2)に搭載されている10チャンネルの観測輝度情報を,Random Forest (RF) と呼ばれる統計的手法によってドイツ国内の地上レーダの降雨観測と関連付けることで,静止気象衛星と同様の高時間分解能で降雨推定が可能になるとしている.この手法はまず静止気象衛星観測からランダムにいくつかのチャンネルを抽出して小さな標本集団を作製し,その標本集団を用いて降雨・非降雨の場合分けを行う.さらに同様のランダム選択によって標本集団を量産し,最終的に各標本集団の降雨・非降雨判定の多数決によって降雨域を決定する.個々の標本ごとに学習させるため計算コストが小さいというメリットがあり,静止気象衛星の多数のチャンネル情報を活用することで降雨域だけでなく降雨タイプの判別や降雨強度の推定も可能な手法である.先行研究はドイツ国内の限られた範囲での解析であったが,本研究ではこのRF手法を第3世代静止気象衛星ひまわり8号の10分毎全球観測に適用することによって,東アジア域で解析可能な高時間分解能の降雨推定プロダクトを作成した.さらにRF手法の機械学習に用いる降雨の真値を,先行研究で用いられていたドイツ国内の地上観測からGPMの衛星降雨観測に置き換えることによって,衛星観測のみから降雨推定を行うことを可能にし,解析範囲を中緯度だけでなく熱帯域含む広い範囲へと拡大することに成功した.

先行研究の解析が行われたヨーロッパ域と比較して,本研究の解析対象領域である東アジア域はより複雑な季節変化を伴っている.そこで本研究では日本国内の地上降雨レーダを用いることにより,ひまわり8号-GPM降雨プロダクトの降雨推定精度が季節・地域依存性を解析した.解析の結果,降雨域の推定精度が最も高くなるのは梅雨期を含む6月~8月の夏季で,逆に最も低くなるのは降雪を含む12月~2月の冬季であった.降雨強度の推定精度に関しては前線性の降雨が卓越する3月~5月の春季と9月~11月の秋季が高く,それに対して強い雨の発生頻度が多くなる夏季と降雪を含む冬季は低くなるという結果になった.さらに降雨の学習領域を北緯30度以南の亜熱帯域に限定して行った結果,降雨域・降雨強度とも最も高い推定精度が高くなり,特定の降水システムに限定して学習させることが推定精度の向上に重要であるという結果が得られた.またこのひまわり8号‐GPM降雨プロダクトは亜熱帯海上や夏季陸域ではGSMaPのマイクロ波観測で捉えることのできない空間スケールが数km以下の非常に小さな降雨を捉えることができており,このような降雨に対してはひまわり8号‐GPM降雨プロダクトの持つ高い空間分解能が活かされると考えられる.

本研究で使用したひまわり8号観測データは全て文部科学省特別教育研究経費プロジェクト「地球気候系の診断に関わるバーチャルラボラトリーの形成」の一環として作成され,千葉大学環境リモートセンシング研究センターが公開するものである.降雨観測の真値として気象庁合成レーダの換算降雨強度とGPM主衛星のKuバンド降雨レーダによる地上降水強度を用いた.