JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[EJ]Eveningポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG47] [EJ] 陸域生態系の物質循環

2017年5月25日(木) 15:30 〜 16:45 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[ACG47-P09] 冷温帯林ミズナラ林冠葉における光合成機能とクロロフィル蛍光の季節変化

*辻本 克斗1加藤 知道2中路 達郎3小熊 宏之4村岡 裕由5 (1.北海道大学大学院農学院、2.北海道大学大学院農学研究院、3.北海道大学北方生物圏フィールド科学センター、4.(独)国立環境研究所環境計測研究センター、5.岐阜大学流域圏科学研究センター)

キーワード:リモートセンシング、太陽光誘起クロロフィル蛍光、葉面積指数、炭素循環、非光化学消光

近年,世界各地で気候変動が生じている。この気候変動の原因を探り,また予測するためには地球上の炭素の挙動を解明することが不可欠であり,その中でも最も大きい炭素吸収フラックスのひとつである陸域生態系の総一次生産(GPP)を正確に推定することは人類の喫緊の課題である。太陽光誘起クロロフィル蛍光(Solar-Induced Fluorescence: SIF)は,近年野外環境での観測が可能になり, GPPおよび光合成に関する生理的情報の指標として期待されている。本研究は,SIFおよびSIFの収率が季節ごとにどのような要因で季節変化するかを,個葉および林冠スケールでのモデルと観測から明らかにすることを目的とした。
 観測地は北海道大学苫小牧演習林の林冠クレーンサイト(北緯42°40',東経141°36')で,年間降水量は1200 mmである。このサイトには林冠クレーンが建設されており,クレーンを操作して林冠の葉にアクセスすることができる。クレーンの頂部および腕の下部には半球分光放射計(MS700,英弘精機,東京)が設置されており,それぞれ入射光と反射光のスペクトルを測っている。760 nm付近の領域における両スペクトルから,3FLD法を用いて南中時(11:30-12:00)に森林から出るSIFを観測・計算した。2016年の6月から10月の月に一度,サイト内に生息するミズナラ4個体の林冠葉それぞれ4枚を対象に,光合成測定装置LI-6400XT(Li-Cor, Inc., U.S.A.)を用いて最大カルボキシル化速度(Vcmax25)を測定・計算した。この光合成パラメータ・南中時の気温・光合成有効放射(PAR)から個葉のSIFを,van der Tol et al. (2014)のクロロフィル蛍光-光合成モデルを用いて再現した。また,森林の葉面積指数(LAI)を,半球分光放射計から計算した分光反射指数EVIを用いて推定し,個葉レベルで再現したSIFにLAIをかけることで林冠レベルのSIFの季節変化を再現し,観測されたSIFとの比較を行なった。
個葉レベルのシミュレーションの結果,Vcmax25を固定した(8月に観測されたVcmax25の平均値とした)ときに比べ,Vcmax25の季節変化を考慮したときのSIFは4.9 %低くなり,Vcmax25がSIFに与える影響は小さいことが明らかになった。このVcmax25によるSIFの変化は,Vcmax25が春と秋に低下すると,熱放散回路がより活性化され,蛍光収率(fF)は減少することが原因である。また,個葉で再現されたSIFはAPARと非常に強い相関を持ち(r2=0.99),個葉レベルではSIFは吸収した光の量にしたがって放出されると考えられる。
林冠レベルでのシミュレーションと観測結果を比較した結果,SIFについてはr2=0.91,SIFの収率(SIF/APAR)についてはr2=0.64となり,ともに高い相関が得られた。この値は個葉レベルのモデル値と林冠での観測値の比較における決定係数(それぞれr2=0.73,r2=0.34)よりも高かった。このように,林冠での観測SIFは個葉のモデルよりも林冠のモデル値と高い相関を持った。このことから,林冠の葉量は観測されるSIFに影響していることがわかる。SIFは光環境によって変化するので,SIFをAPARで割って標準化 (SIF/APAR)しLAIとの関係を調べたところ,両者には非線形的な関係 (SIF/APAR = (127x2-4.73x + 3.34)*10-4)が認められた。この結果は,SIFの季節変化がLAIの影響を大きく受けていることを示唆している。
既往の研究では,SIFとGPPとの高い相関が報告されてきたが,本研究によって,SIFの季節変化は光と葉量によって生じることが明らかになった。この知見は,SIFをリモートセンシングする際の正しい解釈につながると考えられる。