JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ]Eveningポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG50] [JJ] 沿岸海洋生態系──2.サンゴ礁・藻場・マングローブ

2017年5月24日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[ACG50-P03] 石垣島川平湾におけるサンゴの白化現象と濁りによる死滅の回避

*矢代 幸太郎1金城 孝一2中村 由行3 (1.横浜国立大学大学院都市イノベーション学府/株式会社東京久栄、2.沖縄県衛生環境研究所、3.横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院)

キーワード:Kabira Bay, Acroporidae, Coral bleaching, Turbidity

川平湾は沖縄県石垣島の北西部に位置する湾口から湾奥まで約1.5 km,幅約0.5–1 kmの小規模な内湾である.湾口は大小の島々で塞がれ,狭く浅い水道によって外海に通じる閉鎖的な環境にある.湾内は静穏で,湾奥部を中心にシルト分の多い底質が広がっている.近年,地元住民等から,湾内の透明度の低下,有藻性イシサンゴ(以下,サンゴ)群集の衰退が指摘されている.
2012–2013年に川平湾のサンゴ群集の現況調査を行った.繊細な構造の枝状・洗瓶ブラシ状ミドリイシは,1970年代後半には湾内東岸のほぼ全域で優占種となっていたが(堀越 1979),現在はその大半が失われ,湾中央部では死滅してサンゴ礫となっていた.一方で,湾奥部の水深2–6 mでは生残し,高被度で分布していた.
死滅の要因について,水温連続観測データ,航空写真,周辺海域のサンゴ群集モニタリングデータ,地域情報に基づいて考察すると,湾内で2007年の夏季に高水温による大規模な白化が起き,広範囲でサンゴ群集が死滅したと考えられた.湾奥部もこの高水温に曝されたが,何らかの要因で死滅が回避されたと考えられる.
死滅の回避要因について,高水温が緩和した可能性を検討した.2006–2011年の湾奥部の水温は,毎年7月ごろに30°Cを超え,集中豪雨により2°C程度低下して数日後に戻る変動がみられた.湾奥部の水深5 m層では100 mm/日以上の降雨で1.5±0.6°C(3日間の平均±標準偏差)水温が低下したが,集中豪雨が無い場合はほとんど水温変動がなかった.2013年8月27日–9月30日に実施した水温連続観測(期間中の降雨は最大15 mm/日)では,水深5 mの水温は湾中央部で28.7±0.7°C(期間平均±標準偏差),湾奥部で28.7±0.8°Cと差が無かった.これらのことから,川平湾において湾奥部のみが低温となるには,集中豪雨が頻繁に降ることが条件となると考えられた.2007年の大規模白化が起きた期間,集中豪雨は60㎜/日が1日観測されたのみで,湾奥部において継続的に水温が低下した可能性は低い.従って,死滅の回避は,高水温の緩和以外の要因によると考えられる.
白化による死滅を低減させる要素に,濁りによる減光がある.Goreau et al. (2000)は,1998年の大規模白化において,濁った場所で白化による死亡率が低かったことを報告した.濁りは,原因物質である浮遊懸濁物質(以下,SS)が光を散乱させるなどして光ストレスを低減し,白化による死亡率を下げる場合がある.
川平湾の湾奥部は恒常的に濁度が高い環境にあった.2013年8月27日–9月30日に実施した濁度の連続観測では,観測を行った全ての水深層で湾奥部の濁度が最も高かった.水深5 mの太陽光の強度は,湾中央部では海面の約6.5 %であるが,湾奥部では約2.7 %と顕著に低下しており,濁りによる減光が認められた.また濁度の連続観測では,湾奥部において日中の干潮時に濁度が上昇する傾向がみられた.この現象は,水位低下に伴う風波による巻き上げや,干潟に堆積した赤土等のSSとしての移送と考えられた.日中の干潮時は日射による影響が最も強い条件であり,濁りによる減光の効果はさらに高いと判断できる.
一方,濁りはSSで10–20 mg/lになると枝状ミドリイシが白化するといった阻害的な影響を誘引する(Erftemeijer et al. 2012).湾奥部の濁度は平均で約2 FTUで,SS換算では2.3 mg/lであった.これらのことから,川平湾の湾奥部の濁りは,減光の効果がありつつ阻害的影響が起きない範囲にあったと考えられる.
近年,湾奥部において赤土等の流入量が増加したという指摘があり,白化による死滅の回避が起きやすかったと考えられる.赤土等の流入量を調整してサンゴ群集に好適な濁り条件を維持できれば,頻発する白化からサンゴ群集を守る保全方策となり得る.

引用文献
Erftemeijer et al. (2012) Mar. Pollut. Bull. 64, 1737-1765
Goreau et al. (2000) Conserv. Biol. 14, 5-15
堀越 (1979) 環境科学としての海洋学3,東海大学出版,東京,145-169