JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ]Eveningポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG52] [JJ] 植物プランクトン増殖に関わる海洋-大気間の生物地球化学

2017年5月25日(木) 15:30 〜 16:45 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[ACG52-P01] 親潮域における春季植物プランクトン増殖に関わる海洋-大気間の生物地球化学

*西岡 純1鈴木 光次2宮崎 雄三1谷本 浩志3 (1.北海道大学低温科学研究所、2.北海道大学地球環境科学研究院、3.国立環境研究所)

キーワード:植物プランクトンブルーム、海洋-大気間地球化学、親潮・沿岸親潮、栄養物質動態

西部北太平洋の北西に位置する親潮域は、豊な水産資源を生み出す重要な海域となっている。また親潮域は、生物による表面海水中の二酸化炭素分圧を下げる効果が大きく、生物ポンプの効率が世界の海の中でも著しく高い海域である。この海域の高い生物生産や生物ポンプ能力は、植物プランクトン増殖に起因しており、中でも春季に起こる大増殖(ブルーム)が重要な役割を果たしている。この植物プランクトンブルームは、水塊構造や光環境に加えて、鉄や主要栄養塩(窒素、リン、ケイ素など)の供給量によって大きさが決まる。これまでに数多く親潮域の植物プランクトンブルームを対象にした研究が実施されおり、親潮域本流における植物プランクトンの増殖過程に関しては多くの知見が集まっている。

 冬季から春季にかけて、北海道の沿岸寄りには水温の極めて低い沿岸親潮水が存在する。この沿岸親潮水では、春季の早い時期に極めて大きな植物プランクトンの増殖が観測されている。沿岸親潮水は、冬季に始まる季節の進行とともに親潮域の広範囲に広がり、親潮域全体の春季植物プランクトンブルームに関与していると考えられるが、この水塊の役割は十分に理解されていない。

 沿岸親潮水には低温・低塩分水の特徴が見られる。沿岸親潮水の起源については、これまでオホーツク海の海氷融解水、東サハリン海流の影響などが考えられてきたが、未だ十分に理解されていない。その中でも春季のオホーツク海氷の融解は、低温・低塩分水を海洋表層に供給し、密度成層を発達させ、春季の植物プランクトンの増殖に大きな影響を与えている可能性がある。さらに海氷は、冬季の間、大気降下物や陸棚堆積物をトラップし、植物プランクトンの増殖に必須な鉄分を広範囲に移送している。このため海氷融解水は、沿岸親潮水を介して鉄分の不足しがちな親潮域の栄養塩環境に大きな影響を与えていると推察される。さらに、沿岸親潮水は、道東域河川水や沿岸堆積物の影響を受け、渦や局所的な混合過程を経て沖合へと影響を与え、ブルーム期の植物プランクトンの分布に多大な影響を与えていることが水温やクロロフィル衛星画像から推察される。しかし、沿岸親潮水と親潮水間の様々なレベルでの水塊交換が、化学物質や生物の分布や群集組成にどのように影響を与え、親潮域のブルームを形成しているのかについては良く分かっていない。

 また、植物プランクトンブルームが、気候変動に多大な影響を与えるDMSなどの生物起源ガスの発生や、有機エアロゾルを誘発する可能性があるが、その発生プロセスの詳細は未解明な点が多い。さらに、海洋大気中の生物起源ガスやエアロゾルは、大気化学反応を介して、雲生成と放射収支や海洋-大気間の炭素・窒素循環に関わり、海洋植物プランクトン増殖にフィードバックすると考えられる。加えて、人為起源二酸化炭素の増加に伴って、親潮域で起こる植物プランクトンブルームを起点とした物質循環(生物地球化学過程)がどのような影響を受けるのかについて科学的な知見を収集することは、将来予測の観点より喫緊の課題となっている。

 これらの「植物プランクトン増殖に関わる海洋-大気間の生物地球化学的過程」の研究課題に取り組むため為に、2015年3月6日から26日に学術研究船白鳳丸を用いた観測研究を実施した。本航海は、沿岸親潮水、沖合の親潮水、さらに水温前線を南に超えた暖水塊の各水塊を異系化して捉え、乱流混合などの物理プロセスを介した水塊間の栄養物質交換と、植物プランクトンブルーム発生機構、光学的特性、生物(微生物、動植物プランクトン)の群集組成と動態、および、それに伴う生物起源ガスや・エアロゾルの生成や雲粒生成などの大気化学的過程、さらには二酸化炭素濃度変化における植物プランクトンブルーム時の物質循環の応答などを調査することを目的として実施した。
 本発表では、研究航海全体の概要および観測時の海洋環境の特徴と、特に植物プランクトンブルーム直前の栄養物質動態に関して報告する。