[ACG52-P03] 沿岸親潮水と親潮水における春季植物プランクトン群集の組成と光合成生理状態の違い
キーワード:植物プランクトン、春季ブルーム、群集組成、光合成生理
毎春、北海道東部沖の沿岸親潮域および親潮域では、大規模な植物プランクトンブルームが発生する。一般に、冬季から春季にかけての沿岸親潮表層水は、親潮表層水に比べ、より低温、低塩分、高栄養塩の特徴を持つことから、両水塊において、植物プランクトン群集の現存量、組成、光合成生理状態に大きな違いが見られる可能性がある。そして、これら植物プランクトン群集の生態生理の違いは、両海域における生物地球化学過程および生態系に多大な影響を及ぼすことが予想される。しかしながら、これらに関する知見は未だ著しく限られている。このため、2015年3月6–26日に学術研究船白鳳丸、4月16–17日に練習船みさご丸を利用して、フィールド調査を実施した。植物プランクトン群集の現存量と組成は、超高速液体クロマトグラフィーによる植物色素解析から評価した。また、珪藻群集組成を明らかにするため、18S rRNA遺伝子を標的としたメタバーコーディング解析を行った。さらに、植物プランクトンの光合成生理状態を光合成—光曲線、クロロフィル可変蛍光、珪藻rbcL遺伝子発現から評価した。白鳳丸航海期間では、沿岸親潮域および親潮域の大部分の観測点では、植物プランクトンブルームが発生しておらず、珪藻類が優占していた。一方、みさご丸による沿岸親潮水の観測では、珪藻ブルームが発生していた。沿岸親潮水の珪藻群集では主にThalassiosira属、親潮域ではThalassiosira、Minidiscus、Fragilariopsis属の混合群集が優占していた。現場水温から7℃上昇させて1日間培養実験を行った結果、沿岸親潮水では、珪藻rbcL遺伝子発現およびChl a濃度で規格化した最大光合成速度が顕著に増加したが、親潮水では同様の温度効果が確認できなかった。本研究結果から、沿岸親潮域のThalassiosira属が海水温上昇に対して鋭敏に反応し、迅速にブルームを形成することが示唆された。