[ACG53-P02] 気候変動の観点からの高知平野鏡川流域における高潮・地震などの複合的水害リスクの評価と対策について
★招待講演
キーワード:気候変動、水文モデル、地震、複合災害、地盤沈下、ダム管理
気候変動によって災害リスクの増大が懸念される一方で、東日本大震災以降,単体での災害だけではなく複合災害のリスクについても関心が高まっている.また東日本大震災や近年の水害多発に対して,水防法が改正されて想定しうる最大の降雨について被害想定を行うことが求められるようになった.従来の防災では、単一の災害について一定の想定を行い、その想定に基づいた計画を作って,対策や訓練を行ってきたが、「単一」と「想定」について大きく方針が転換されたということになる。
また人口減少や財政難で,社会資本整備についても新規の施設の建設には困難を伴い,また気候変動を筆頭に変化するリスクに対しては,施設の整備などの対策は,たとえ着工が可能であったとしてもリスクの増大に追随できない可能性が高い.またリスクが激化するという一方向の流れであれば施設は手戻りにはならないが,リスクが変化する場合には過剰投資・手戻りになる可能性も否定できない.そのため,時間軸での分析も重要となる.
特に本研究では,その中でも「単一」の想定を越え,複合災害のリスクについての分析を行い,既存のストックを活用した対策を提案する.
対象エリアは高知市を中心とした高知平野を流れる鏡川流域とし,南海トラフ地震による地盤沈下と,台風による高潮・洪水の複合リスクについてをあつかう.高知平野で最大の河川である鏡川は,山間部から始まり市街地を貫流して浦戸湾に注ぐ,幹川流路長32 km,集水域は170 km2の二級河川である.流域には多目的ダムである鏡ダムが建設されている.また土佐湾ならびに浦戸湾は高潮のリスクが大きい.
また日本に多い都市部低平地河川と同様に,上流部からの洪水流の流下,河口からの潮汐の影響,市街地からの下水の放流などによる水位の上昇などの様々な要素がありリスクの評価が難しい.そのため筆者らが鶴見川で開発を進めているシームレスモデルを導入し,降雨と潮汐から河道の水位を予測できるモデルを構築した.
また,南海トラフ地震では最大2mの地盤沈下が発生した.その複合リスクを評価するために,河道モデルにおいて地盤高を変化させて,その影響を評価した.地盤沈下によって潮汐の影響は広範囲に広がること,また潮汐のピークと洪水のピークが重なった場合,潮汐の影響による流下能力の低下が地盤沈下によって顕著になるということが明らかになった.
これらのリスクに対応するために実際に行う事の出来る対策は限られている.地震による堤防などの河川施設の損壊を防止するために耐震補強を行うことは重要であるが,地盤沈下と高潮と洪水という複合災害についてはそれだけでは対応できない.流下能力の低下に対しては,上流のダムによる洪水調節が重要な手段となるが,新規のダムの建設は困難であり,また洪水調節容量を変更することも難しい.このため,従来通りの洪水調節容量のまま,ダムの運用ルールをこれまでの定率カットに変えて,高潮のピークに対して“鍋底カット“を行うことに変更した場合の効果を検証を行った.
同じ洪水調節容量のままであっても,2mの高潮のピークに対して流下量を絞るという運用にすると安全に流下させられることがわかった.
時間的な観点から見ると,地震による地盤沈下の影響は数年単位で一時的な場合も多く,一定の時間の後には地盤高は回復することも多い.そのため,地盤沈下を対象とした恒常的な施設整備よりも有利であり,発生が懸念される地震への対応としては,新規のダム建設とは違ってすぐに利用出来る手段が必要であるが,ダムの操作ルールの変更は地震との複合リスクに対して望ましいといえる.
また時間の観点からは気候変動の影響がこの複合リスクにどう影響するか,という点が重要となる.高知平野の鏡川を対象にした先行研究では,井芹らや左藤らは,気候変動によって最大流量に変化はないか減少するが,年最大流量の平年値の増大や,既往最大クラスの洪水の頻度の増大を予測している.単体での気候変動のリスクを考えると,最大流量が増大しない,というのは,適切に施設整備が成されていれば安全に流下できるということでもあるので,災害リスクが増大したとはいえない.これは既往最大クラスの洪水の頻度が増加する,あるいは年最大流量の平年値の増大という点も,やはり災害リスクは増大しない,と考えられる.
しかし,地震による短期間の施設の損壊や,地震後の一定期間の地盤沈下といったリスクを勘案すると,「既往最大クラスの洪水の頻度が増加」「年最大流量の平年値の増大」は別の意味を持つようになる.地震によって一定期間は災害対応力が弱まる,という想定に立つと,頻度の増大であったとしても,複合災害のリスクをもたらすと考えられる.気候変動における災害リスクの増大に関する議論においては新たに議論すべき論点であると考えられる.
また人口減少や財政難で,社会資本整備についても新規の施設の建設には困難を伴い,また気候変動を筆頭に変化するリスクに対しては,施設の整備などの対策は,たとえ着工が可能であったとしてもリスクの増大に追随できない可能性が高い.またリスクが激化するという一方向の流れであれば施設は手戻りにはならないが,リスクが変化する場合には過剰投資・手戻りになる可能性も否定できない.そのため,時間軸での分析も重要となる.
特に本研究では,その中でも「単一」の想定を越え,複合災害のリスクについての分析を行い,既存のストックを活用した対策を提案する.
対象エリアは高知市を中心とした高知平野を流れる鏡川流域とし,南海トラフ地震による地盤沈下と,台風による高潮・洪水の複合リスクについてをあつかう.高知平野で最大の河川である鏡川は,山間部から始まり市街地を貫流して浦戸湾に注ぐ,幹川流路長32 km,集水域は170 km2の二級河川である.流域には多目的ダムである鏡ダムが建設されている.また土佐湾ならびに浦戸湾は高潮のリスクが大きい.
また日本に多い都市部低平地河川と同様に,上流部からの洪水流の流下,河口からの潮汐の影響,市街地からの下水の放流などによる水位の上昇などの様々な要素がありリスクの評価が難しい.そのため筆者らが鶴見川で開発を進めているシームレスモデルを導入し,降雨と潮汐から河道の水位を予測できるモデルを構築した.
また,南海トラフ地震では最大2mの地盤沈下が発生した.その複合リスクを評価するために,河道モデルにおいて地盤高を変化させて,その影響を評価した.地盤沈下によって潮汐の影響は広範囲に広がること,また潮汐のピークと洪水のピークが重なった場合,潮汐の影響による流下能力の低下が地盤沈下によって顕著になるということが明らかになった.
これらのリスクに対応するために実際に行う事の出来る対策は限られている.地震による堤防などの河川施設の損壊を防止するために耐震補強を行うことは重要であるが,地盤沈下と高潮と洪水という複合災害についてはそれだけでは対応できない.流下能力の低下に対しては,上流のダムによる洪水調節が重要な手段となるが,新規のダムの建設は困難であり,また洪水調節容量を変更することも難しい.このため,従来通りの洪水調節容量のまま,ダムの運用ルールをこれまでの定率カットに変えて,高潮のピークに対して“鍋底カット“を行うことに変更した場合の効果を検証を行った.
同じ洪水調節容量のままであっても,2mの高潮のピークに対して流下量を絞るという運用にすると安全に流下させられることがわかった.
時間的な観点から見ると,地震による地盤沈下の影響は数年単位で一時的な場合も多く,一定の時間の後には地盤高は回復することも多い.そのため,地盤沈下を対象とした恒常的な施設整備よりも有利であり,発生が懸念される地震への対応としては,新規のダム建設とは違ってすぐに利用出来る手段が必要であるが,ダムの操作ルールの変更は地震との複合リスクに対して望ましいといえる.
また時間の観点からは気候変動の影響がこの複合リスクにどう影響するか,という点が重要となる.高知平野の鏡川を対象にした先行研究では,井芹らや左藤らは,気候変動によって最大流量に変化はないか減少するが,年最大流量の平年値の増大や,既往最大クラスの洪水の頻度の増大を予測している.単体での気候変動のリスクを考えると,最大流量が増大しない,というのは,適切に施設整備が成されていれば安全に流下できるということでもあるので,災害リスクが増大したとはいえない.これは既往最大クラスの洪水の頻度が増加する,あるいは年最大流量の平年値の増大という点も,やはり災害リスクは増大しない,と考えられる.
しかし,地震による短期間の施設の損壊や,地震後の一定期間の地盤沈下といったリスクを勘案すると,「既往最大クラスの洪水の頻度が増加」「年最大流量の平年値の増大」は別の意味を持つようになる.地震によって一定期間は災害対応力が弱まる,という想定に立つと,頻度の増大であったとしても,複合災害のリスクをもたらすと考えられる.気候変動における災害リスクの増大に関する議論においては新たに議論すべき論点であると考えられる.