[AOS24-P05] 観測塔周りの風の流れの数値シミュレーション
-数値シミュレーションの適用について-
キーワード:風速測定、流れの可視化、数値シミュレーション、数値流体力学、風応力
大気・海洋間の運動量、すなわち海面応力を定量化する際に用いられる抵抗係数CD(あるいは摩擦速度u*)は一般的に海上高度10 mでの風速U10のみの関数で表されている。しかし、詳細な知見が十分でないためCDの測定値は大きくばらついており、多くの式が提案されているが、まだ確立されていない。現場海洋における海上風速(水平および鉛直成分)の観測は観測装置の設置場所(観測塔、ブイ、船舶)の影響により高精度で多様な状況のデータを得ることは困難である。特に海面応力の観測は沿岸域の観測塔で行われることが多く、観測塔が周りの海上風へ及ぼす影響の検討をすることは重要である。そこで、物体周りの影響を検討する有効な手法の一つとして、近年、工学・建築の分野においてCFD(Computational Fluid Dynamics)による数値シミュレーションが良く用いられているが、海洋観測の分野での活用例はほとんどない。本研究では、観測塔を対象としてCFDによる数値シミュレーションにより、観測塔周りの風の流れの可視化を行った。そして、数値シミュレーションが理想的な風速設置位置の検討及び観測塔による影響の補正指標として適用可能か検討した。対象とした観測塔は、相模湾の平塚沖約1 kmに位置する平塚沖総合実験タワー(高さ約20 m)である。観測塔のモデリングにはSolidWorksの3次元CAD、数値シミュレーションソフトにはSolidWorks Flow Simulationを用いた。風向は、観測塔を中心に水平方向に10°間隔の36方向、風速は、鉛直方向に風速分布を与えているため基準としてポール上部での高さ(海面から25.35 m)で5 m/s、10 m/s、15 m/sの3通りである。また、この観測塔では2015年7月29日より観測塔屋上のポール上部(観測塔屋上から3.75 m)と手すり上部(観測塔屋上から1.75 m)の2か所に公称測定精度1.5 %の超音波風速計を設置し海上風観測を行っているため、その2か所においての観測塔による影響をみた。その結果、風速5 m/sの手すり上部ではスカラー風速と流れ方向風速の風下側、風向60°と70°で公称測定精度以内となった。それ以外の風速成分・風向では公称測定精度に収まらなかった。また、ポール上部においては、公称測定精度に収まる風速成分・風向はなかった。また、比較的観測塔による影響が小さい手すり上部風向70°、ポール上部風向250°において観測塔周りの可視化を行った結果、観測塔前面で上方に流れが剥離しているため、観測塔に近いほど観測塔の影響が大きい結果となった。また、風速10 m/s、15 m/sにおいても同様の傾向となった。次に、数値シミュレーションがどの程度現場風速を表すことができているのかを見るために、現場風速と比較を行った結果、数値シミュレーションはほとんどの現場データに対して10 %以内の誤差を示し近い値となった。したがって、まだ厳密な数値シミュレーションではないが、数値シミュレーションは観測塔の影響を検討する上で適応可能であると考えられる。そこで、観測塔における理想的な風速計設置場所の検討を行った。その結果、観測塔屋上中心から高さ8.9 m以上、風上側に18 m以上の距離が必要であり、現実的に強度の観点から設置は困難であると考えられる。そこで、どの風向からも同様に塔の影響を受けると考えられる観測塔中心ポールにおいて、どの風速でも設置高さ約0~1.5 mで影響が約5.35~8.78 %となる補正の係数化を提案した。以上より、海上風の高精度観測に向けた数値シミュレーションの適用の可能性も示された。さらに、観測塔中心のポールにおける補正指標の可能性も示された。