JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ]Eveningポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS26] [JJ] 海洋生物資源保全のための海洋生物多様性変動研究

2017年5月21日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[AOS26-P07] 北日本沿岸におけるコンブ類の分布推定と将来予測を通じた重要海域の選定

*仲岡 雅裕1渡辺 健太郎1須藤 健二1四ツ倉 典茂1 (1.北海道大学)

キーワード:生物多様性、沿岸生態系、水温上昇、シナリオ分析、EBSAs

海藻藻場やアマモ場は沿岸生態系の中でも高い生物多様性と生態系機能を有している。また、コンブ目海藻類は重要な食用資源として、その持続的な生産性の維持管理は水産学的にも重要である。しかし近年の地球温暖化等の気候変動に伴い、藻場においても生物多様性の損失や生態系機能の劣化が憂慮されている。これらの解決のために、藻場の生物多様性、生態系機能の現状を多面的かつ広域的に評価し、将来の変動を予測すると共に、重要な保全地域を選定することなどを通じて、今後の気候変動の適応策を検討することが必要となっている。本研究では、北日本海域のコンブ目海藻藻場を対象として、各種の分布情報より北日本における分布推定を行うと共に環境要因との関連性を解析した。その結果をもとに、複数の気候変動シナリオ下でのコンブ目海藻の分布の変化を予測した。さらに、生物多様性条約の基準6項目(唯一性、絶滅危惧種、脆弱性、生物学的生産性、生物学的多様性、自然性)を多面的に考慮した重要海域 [The Ecologically or Biologically Significant Areas (EBSAs)]の選定方法を開発し、現在の分布、および将来の分布変動を考慮した選定結果を比較した。

コンブ主要種19種について、SDM (Species distribution model)を用いて分布推定を行ったところ、全体の種多様性は北海道東部および北部で高く、この海域がコンブ目海藻類の生物多様性の保全に重要であることが示唆された。また、コンブ目海藻の多くの種で分布範囲を決める要因として水温が大きく影響することが示された。そこで、水温上昇に関する気候変動将来予測モデルとSDMを用いて、複数の気候変動シナリオの元での2100年における各種の分布変動予測を行ったところ、いずれの気候シナリオでも分布域が大きく北上することが予想された。特に、寒流域に生息するコンブ目のほとんどの種は日本沿岸に生息できなくなる可能性が予想されるとともに、全体の種多様性についても、著しい低下が予測された。EBSAsについては、現在の分布を考慮した方法では、北海道沿岸、三陸、伊豆半島、紀伊半島東岸、山口~長崎にかけての海域が候補地として抽出された。しかし、将来における各種の分布域の変動予測を評価項目に加えたところ、EBSAsのほとんどが北海道と三陸に限られて、海藻類が北上する高緯度地方の重要性がより高くなるという結果が得られた。

本研究により、コンブ目海藻類の分布が今後大きく変化することが予測されたことから、その保全および持続的資源利用に向けた対策を急ぐ必要が指摘される。また、保全政策として海洋保護区の設定や持続的な資源管理区を策定する際には、今後の生物の分布変動予測を取り入れた検討が重要であることも明らかになった。