[AOS29-P03] 渦による北太平洋回帰線水の輸送と その塩分分布への影響
キーワード:中規模渦、渦輸送、塩分、回帰線水、スケール間相互作用
北太平洋回帰線水は,蒸発が降水よりも盛んな回帰線付近で形成される,高塩な特徴をもつ表層水塊である.回帰線水は形成後,エクマンパンピングにより海洋内部に押し込まれ,北赤道海流により西向きに移流され,亜熱帯循環南西部で塩分極大層として現れる. Nakano et al. (2015)は, 正味の淡水フラックスやエクマンパンピング流速の大規模な変動だけでなく,中規模渦による輸送も,回帰線水の空間分布変動に影響を与える可能性を示唆した.また,Zhang et al. (2014)は,等密度面上で閉じた渦位コンター内の海水がトラップされると仮定し、多数のアルゴデータから合成された中規模渦の3次元密度分布と渦位分布を海面高度データで検出される渦に当てはめることで、全球の中規模渦による体積輸送量を推定した.その結果,中規模渦による東西方向の体積輸送量は,風成循環に匹敵することを示した.以上より,回帰線水が中規模渦に捕捉されて輸送されているのかを調べることは,中規模渦が回帰線水の時空間分布に影響を与えるメカニズムを,より詳細に理解する上で非常に重要であるといえる.さらに,回帰線水が中規模渦により西方輸送されているとすれば,この影響は亜熱帯循環南西部の内部領域だけでなく,より西岸境界に近い領域でも観察されると期待される.そこで,本研究では観測データおよび海洋大循環モデル(OFES)を用いて,中規模渦が回帰線水を渦内に捕捉して輸送していることを塩分の時空間分布特性から示しとともに,中規模渦による回帰線水輸送が琉球海流上の塩分変動に与える影響を考察することを目的とした.
はじめに,回帰線水が渦に捕捉されて形成域から西向きに輸送されていると仮定すれば,高塩な海水が斑状に現れると期待されるため,塩分の空間分布の不連続性に着目した.アルゴの個々のプロファイルから観察される亜熱帯反流域の塩分極大層における塩分とアルゴによる月ごとの格子化データMOAA GPVの塩分との比較,および亜熱帯循環南西部における塩分極大層塩分観測値のヒストグラムから,高塩な海水が時空間的に小さい空間スケールで存在する可能性が示された.つづいて, 24°Nに沿った観測断面の解析から,高気圧性渦内に周囲と比べて高塩な海水が存在している可能性が示された.さらに,アルゴフロートの観測間隔内(約10日間)の塩分変化と,衛星海面高度計による海面高度場から識別された中規模渦の位置との関係を調べることで,高(低)気圧性渦内は周囲と比べて高(低)塩な海水が存在する可能性が示された.これらの特徴は,塩分の空間分布の不均質性を示唆している.これらの時空間分布特性が中規模渦による回帰線水輸送によって生じたことを確かめるために,渦解像モデルを使って回帰線水の移流過程を詳しく調べた結果,中規模渦が回帰線水を渦内に捕捉して輸送しているために,亜熱帯反流域では高塩水が斑状に存在し,上述の塩分時空間分布特性が現れると推察された.
つぎに,中規模渦による回帰線水輸送が琉球海流上の塩分極大層における塩分変動に与える影響を考察した.アルゴフロートおよび渦解像モデルを用いて琉球海流に沿った塩分極大層における塩分を年毎に調べた結果,琉球海流全体で塩分が高い年には,塩分が局所的かつ一時的に高くなるような空間分布変動が現れること,および塩分の短周期変動が激しくなる可能性が示された.さらに渦解像モデルにより, 137°E線と沖縄南東の塩分極大層における塩分の経年変動のラグが,平均流による移流時間より若干小さいことが示された.また中規模渦に伴う輸送が,平均流の流線を横切って,高塩水を琉球列島南東に移流している様子が観察された.このことから,中規模渦に伴う輸送は,散発的に,かつ速く塩分変動シグナルを伝えるため,ラグが平均流による移流時間よりも若干小さくなることが推察された.以上をまとめると,中規模渦による回帰線水の輸送は,内部領域の塩分変動シグナルを平均流よりも速く琉球海流に伝え,琉球海流上の塩分を全体的に高め,さらに塩分の短周期変動を強めることが示唆された.
以上より,中規模渦による回帰線水の輸送は,内部領域の塩分変動を平均流よりも速く西岸境界域に伝えるとともに,西岸境界域の亜表層における塩分経年変動の特徴にも大きな影響を与えることが示唆された.
はじめに,回帰線水が渦に捕捉されて形成域から西向きに輸送されていると仮定すれば,高塩な海水が斑状に現れると期待されるため,塩分の空間分布の不連続性に着目した.アルゴの個々のプロファイルから観察される亜熱帯反流域の塩分極大層における塩分とアルゴによる月ごとの格子化データMOAA GPVの塩分との比較,および亜熱帯循環南西部における塩分極大層塩分観測値のヒストグラムから,高塩な海水が時空間的に小さい空間スケールで存在する可能性が示された.つづいて, 24°Nに沿った観測断面の解析から,高気圧性渦内に周囲と比べて高塩な海水が存在している可能性が示された.さらに,アルゴフロートの観測間隔内(約10日間)の塩分変化と,衛星海面高度計による海面高度場から識別された中規模渦の位置との関係を調べることで,高(低)気圧性渦内は周囲と比べて高(低)塩な海水が存在する可能性が示された.これらの特徴は,塩分の空間分布の不均質性を示唆している.これらの時空間分布特性が中規模渦による回帰線水輸送によって生じたことを確かめるために,渦解像モデルを使って回帰線水の移流過程を詳しく調べた結果,中規模渦が回帰線水を渦内に捕捉して輸送しているために,亜熱帯反流域では高塩水が斑状に存在し,上述の塩分時空間分布特性が現れると推察された.
つぎに,中規模渦による回帰線水輸送が琉球海流上の塩分極大層における塩分変動に与える影響を考察した.アルゴフロートおよび渦解像モデルを用いて琉球海流に沿った塩分極大層における塩分を年毎に調べた結果,琉球海流全体で塩分が高い年には,塩分が局所的かつ一時的に高くなるような空間分布変動が現れること,および塩分の短周期変動が激しくなる可能性が示された.さらに渦解像モデルにより, 137°E線と沖縄南東の塩分極大層における塩分の経年変動のラグが,平均流による移流時間より若干小さいことが示された.また中規模渦に伴う輸送が,平均流の流線を横切って,高塩水を琉球列島南東に移流している様子が観察された.このことから,中規模渦に伴う輸送は,散発的に,かつ速く塩分変動シグナルを伝えるため,ラグが平均流による移流時間よりも若干小さくなることが推察された.以上をまとめると,中規模渦による回帰線水の輸送は,内部領域の塩分変動シグナルを平均流よりも速く琉球海流に伝え,琉球海流上の塩分を全体的に高め,さらに塩分の短周期変動を強めることが示唆された.
以上より,中規模渦による回帰線水の輸送は,内部領域の塩分変動を平均流よりも速く西岸境界域に伝えるとともに,西岸境界域の亜表層における塩分経年変動の特徴にも大きな影響を与えることが示唆された.