JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ]Eveningポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG10] [JJ] 生命-水-鉱物-大気相互作用

2017年5月22日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[BCG10-P06] 透過型電子顕微鏡(TEM)と走査型透過X線顕微鏡(STXM)による地衣類-溶岩界面の観察

*田村 知也1興野 純1癸生川 陽子2伊藤 元雄3西宮 ゆき4 (1.筑波大学大学院生命環境科学研究科地球進化科学専攻、2.横浜国立大学 大学院工学研究院 機能の創生部門 、3.海洋研究開発機構 高知コア研究所 、4.物質材料研究機構 電子顕微鏡ステーション)

キーワード:地衣類ー岩石相互作用、TEM、STXM、ナノスケール

はじめに: 火山噴火によって流出した溶岩は, 次第に雨風による風化を受け, それに伴い様々な元素(e.g. Ca, Mg, Fe, Si, Al)が溶出する. これらのうちSi, Al は粘土鉱物として晶出し(Wilson, 2004), Ca, Mg, Feは粘土鉱物に吸着される. このようにして地表の肥沃化が進み, 土壌が形成される(Kato et al., 2005). 近年, パイオニアプラントとして知られる地衣類が風化を促進している要因として指摘されている (Chen et al., 2000; Vingiani and Adamo, 2013; Jackson, 2015). これまでの研究から, 偏光顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)によって, ミクロレベルの細粒な生成物が地衣類-溶岩界面で複雑な組織を形成している様子が明らかになった(Vingiani et al., 2013; Vasconcelos et al., 2015). しかしながら, 地衣類-溶岩相互作用メカニズムの解明には, それらの界面のナノスケール観察や化学状態解析が必須である. 本研究では, 透過型電子顕微鏡(TEM), 走査型透過X線顕微鏡(STXM)による地衣類-溶岩界面のナノスケール解析を行った.

実験方法: 伊豆大島の三原山で1986年に噴出した溶岩のうち地衣類が着生したものを用いて実験を行った. 地衣類-溶岩界面の厚片試料を作成した後, FIB(JEOL: JEM8530FIB)に供試し, 地衣類-溶岩界面の透過電子顕微鏡(TEM)用試料および走査型透過X線顕微鏡(STXM)用試料を作成した. STXMは米国ローレンスバークレー研究所(LBNL)のAdvanced Light Source (BL 5.3.2.2), TEMは物質材料研究機構(NIMS)の電子顕微鏡(JEOL: JEM-2100F)をそれぞれ用いた.

結果と考察: 走査型透過電子顕微鏡法によるエネルギー分散型X線分析(STEM-EDX)および制限視野電子線回折(SAED)により, 地衣類-溶岩界面の幅約2µmの領域において特異的に, goethite(最大径約1.4µm), amorphous alumino-silicate(最大径約1.3µm)およびα-quartz(最大径約1µm)が確認された. またSTEM-EDXの結果, amorphous alumino-silicateは主にSiとAlから構成され, 少量のMg, Feと微量のKを含んでいた. これまでにも, 地衣類と岩石の界面には鉄酸化鉱物やアルミノケイ酸塩鉱物の生成が報告されており, これらは地衣類が分泌する有機物質と岩石の反応により生成する可能性が指摘されている(Adamo and Violante, 2000; Vingiani et al., 2013). 本研究で確認された地衣類(S. vesuvianum)もフェノール類や脂肪酸を分泌することが知られ(Solberg, 1976; Szeczuga and Olech, 1990), これらの有機物質がgoethiteやamorphous alumino-silicateの生成に関与したと考えられる. 一方, 粉末X線回折の結果から溶岩中にα-quartzの存在は認められず, 二次鉱物としてα-quartzが生成することは考えにくい. したがって, α-quartzは, 風塵として地表に堆積した後に地衣類による被覆を受けたものと考えられる(Vingiani et al., 2013).