[HCG30-P01] 新潟-長野県境に発達する更新世巨大山体崩壊の発生と堆積物
キーワード:巨大崩壊、岩屑流、更新世、魚沼層、関田山脈
1.はじめに
火山での事例が多い“山体崩壊-岩屑流発生”と類似した巨大崩壊が火山体以外の地域で発生していた事例について報告する.調査地域は新潟-長野県境に位置する関田山脈北東部であり,山脈の稜線北側には最大比高400m,延長約6kmに及ぶ急崖が連なっており,巨大崩壊により菖蒲高原,渋海川上流域,大厳寺高原などの小起伏平坦面などが形成された.当該地域の地質は竹内ほか(2000)によると後期鮮新世~後期更新世の魚沼層が分布する.
2.巨大崩壊地形
本報告では,菖蒲高原などを形成した巨大崩壊を野々海崩壊,渋海川上流域に小起伏平坦面を形成した巨大崩壊を天水崩壊,大厳寺高原面などを形成した巨大崩壊を大厳寺崩壊と称し,これらの崩壊について論ずる.野々海崩壊は比高約150mの滑落崖と約950mの滑落幅を有し,土砂堆積を確認できるのは菖蒲高原の面である.堆積物の水平流動距離は約2,700m,層厚は最大約50m,平均15~20mと推定される.天水崩壊は最大比高約400mの滑落崖と約3,000mに達する滑落幅を有し,土砂堆積を確認できるのは渋海川上流域に広がる小起伏平坦面である.堆積物の水平流動距離は約4,500m,層厚は平均15~30mと推定され,流山も3箇所確認される.大厳寺崩壊は地形条件から天水山付近が滑落崖頂部と推定される.崩壊による土砂堆積を確認できるのは天水山から大厳寺牧場に至る河川沿いの緩勾配斜面や牧場の面で,堆積物の水平流動距離は約3,300m,層厚は平均10~35mと推定される.
3.崩壊堆積物の性状と構成
崩壊堆積物はいずれの地域においてもシルト岩の角礫からなる堆積層(sis)と,安山岩質火山岩類を主体とした堆積層(tfb)から構成される.いずれの地層もハンマーでは簡単に貫入できない程度に固結している.堆積層(sis)は直径数cm程度の角礫状のシルト岩が密にパックされており,安山岩角礫を含むこともある.堆積層(tfb)の特徴は,①安山岩の亜角~角礫(φ~3m,多くはφ10~50cmを主体)を多く含んだ礫支持~マトリックス支持堆積物,②堆積時に水を伴ったと思われる堆積構造が見られない,③礫には安山岩のほかにシルト岩,砂岩,凝灰岩などがありクサレ礫を含む,④基質部は凝灰質~砂混じりシルト質で新鮮部では青みがかった灰色~青緑色がかった灰色である.野々海崩壊と天水崩壊による堆積層は基盤から上位へtfb-1(最大層厚20m),sis-1(同5m),sis-2(同15m),tfb-2(同10m),tfb-3(同20m),表土へと積層し,sis-1-sis-2間,sis-2-tfb-2間には厚さ数cmの古土壌・有機物集積層を挟在する.一方,大厳寺崩壊による堆積層は基盤から上位へtfb(最大層厚20m),sis(同15m),tfb(同10m),表土へと積層する.
4.崩壊堆積物の発生とソース
巨大崩壊した地層は竹内ほか(2000)を参照すると,魚沼層の主に安山岩凝灰角礫岩・火山礫凝灰岩などと海成シルト砂相とが該当する.層序的には前者が上位で後者が下位となる.この巨大崩壊は層序的に上位の地層が先に崩壊した後に,古土壌が形成される程度の時間間隙を2回挟みながら下位の地層が繰り返し崩壊し,その後に上位の地層が再度崩壊するサイクルを示している.現在,安山岩火山岩類は関田山脈北東部の最も多くを占める構成物であるが現在の山地形状での崩壊発生では堆積層sisの単独生成は困難であると考えられる.
5.まとめと議論
巨大崩壊は堆積層の分布から最低5回のイベントがあったと推定される.しかしLidarデータからはこれ以上のイベントの発生が推定可能であり,堆積層との対応,時間の特定及び崩壊堆積層の対比などは今後の課題である.
参考文献
久保田ほか(2014)新潟・長野県境関田山脈南麓のサギング地形とその地質的要因,地学団体研究会専報,60,143-160.竹内ほか(2000)松之山温泉地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,76p.
火山での事例が多い“山体崩壊-岩屑流発生”と類似した巨大崩壊が火山体以外の地域で発生していた事例について報告する.調査地域は新潟-長野県境に位置する関田山脈北東部であり,山脈の稜線北側には最大比高400m,延長約6kmに及ぶ急崖が連なっており,巨大崩壊により菖蒲高原,渋海川上流域,大厳寺高原などの小起伏平坦面などが形成された.当該地域の地質は竹内ほか(2000)によると後期鮮新世~後期更新世の魚沼層が分布する.
2.巨大崩壊地形
本報告では,菖蒲高原などを形成した巨大崩壊を野々海崩壊,渋海川上流域に小起伏平坦面を形成した巨大崩壊を天水崩壊,大厳寺高原面などを形成した巨大崩壊を大厳寺崩壊と称し,これらの崩壊について論ずる.野々海崩壊は比高約150mの滑落崖と約950mの滑落幅を有し,土砂堆積を確認できるのは菖蒲高原の面である.堆積物の水平流動距離は約2,700m,層厚は最大約50m,平均15~20mと推定される.天水崩壊は最大比高約400mの滑落崖と約3,000mに達する滑落幅を有し,土砂堆積を確認できるのは渋海川上流域に広がる小起伏平坦面である.堆積物の水平流動距離は約4,500m,層厚は平均15~30mと推定され,流山も3箇所確認される.大厳寺崩壊は地形条件から天水山付近が滑落崖頂部と推定される.崩壊による土砂堆積を確認できるのは天水山から大厳寺牧場に至る河川沿いの緩勾配斜面や牧場の面で,堆積物の水平流動距離は約3,300m,層厚は平均10~35mと推定される.
3.崩壊堆積物の性状と構成
崩壊堆積物はいずれの地域においてもシルト岩の角礫からなる堆積層(sis)と,安山岩質火山岩類を主体とした堆積層(tfb)から構成される.いずれの地層もハンマーでは簡単に貫入できない程度に固結している.堆積層(sis)は直径数cm程度の角礫状のシルト岩が密にパックされており,安山岩角礫を含むこともある.堆積層(tfb)の特徴は,①安山岩の亜角~角礫(φ~3m,多くはφ10~50cmを主体)を多く含んだ礫支持~マトリックス支持堆積物,②堆積時に水を伴ったと思われる堆積構造が見られない,③礫には安山岩のほかにシルト岩,砂岩,凝灰岩などがありクサレ礫を含む,④基質部は凝灰質~砂混じりシルト質で新鮮部では青みがかった灰色~青緑色がかった灰色である.野々海崩壊と天水崩壊による堆積層は基盤から上位へtfb-1(最大層厚20m),sis-1(同5m),sis-2(同15m),tfb-2(同10m),tfb-3(同20m),表土へと積層し,sis-1-sis-2間,sis-2-tfb-2間には厚さ数cmの古土壌・有機物集積層を挟在する.一方,大厳寺崩壊による堆積層は基盤から上位へtfb(最大層厚20m),sis(同15m),tfb(同10m),表土へと積層する.
4.崩壊堆積物の発生とソース
巨大崩壊した地層は竹内ほか(2000)を参照すると,魚沼層の主に安山岩凝灰角礫岩・火山礫凝灰岩などと海成シルト砂相とが該当する.層序的には前者が上位で後者が下位となる.この巨大崩壊は層序的に上位の地層が先に崩壊した後に,古土壌が形成される程度の時間間隙を2回挟みながら下位の地層が繰り返し崩壊し,その後に上位の地層が再度崩壊するサイクルを示している.現在,安山岩火山岩類は関田山脈北東部の最も多くを占める構成物であるが現在の山地形状での崩壊発生では堆積層sisの単独生成は困難であると考えられる.
5.まとめと議論
巨大崩壊は堆積層の分布から最低5回のイベントがあったと推定される.しかしLidarデータからはこれ以上のイベントの発生が推定可能であり,堆積層との対応,時間の特定及び崩壊堆積層の対比などは今後の課題である.
参考文献
久保田ほか(2014)新潟・長野県境関田山脈南麓のサギング地形とその地質的要因,地学団体研究会専報,60,143-160.竹内ほか(2000)松之山温泉地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,76p.