JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ]Eveningポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG33] [JJ] 原子力発電所の基準地震動: 理学と工学の両面から考える

2017年5月21日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[HCG33-P05] リスク・ガバナンスにおける理学—工学の相互作用とギャップ:
科学技術社会論分野からの問題提起

*寿楽 浩太1 (1.東京電機大学)

キーワード:理学(者)、工学(者)、リスク・ガバナンス、社会的逆機能

2011年3月の東日本大震災ならびに福島原発事故(3.11複合災害)後、災害をもたらす自然現象、あるいは高度な人工物の特性についての専門知の不定性とどう向き合うかが問い直されてきた。知識の有限性が改めて自覚され、謙虚で禁欲的な態度が求められる一方で、現存するリスクと向き合い、社会や人びとを守ろうとする努力も怠りがたい。リスクに関する専門知をリスクに関する意思決定やリスク・マネジメントの実践(それらが相互にプラスに作用し、リスクを適切にマネジメントできる状態が良好なリスク・ガバナンスであると言える)に活かす際には、常にこの相克と向き合わざるを得ない。
 これに関して、本来的に現象の理解に重きを置き、知識生産それ自体に意義と価値を見いだす態度を取る理学(者)と、クライアント(利用者)を持ち、問題解決や目的の達成を使命とする工学(者)は、相互にその知見を参照しつつも、その間には一定の緊張関係が生まれざるをえない。
 例えば、理学(者)は自らが産出・知悉する専門知が災害等のリスクに関する警戒の必要性を示唆した場合、そのことを社会の他のステークホルダーと積極的に共有しようとすることがあるが、その際に発信する専門的助言はリスク回避戦略を比較的躊躇無く含みうる。これに対して、工学(者)にとっては、その問題解決の使命が本来的にリスク・マネジメントを含み込んでおり、その際のリスク戦略はリスク低減やリスク保有、リスク移転といったリスク回避以外の選択肢を含む最適化問題となる。その中ではリスク回避による解決は最後の手段となり、工学的対応のあきらめ、挫折というニュアンスを帯びてくる。
 あるいは、工学的対応によるリスク低減の効果についても、工学者は、それを環境条件との合成で許容可能な度合いへとリスクを抑え込めれば目的を達したと見なす傾向が強いのに対し、理学者は、工学的対応は常に最大限のリスク低減のために取られるべきであり、より良好な環境条件と合成すれば、その分だけリスクの絶対値を抑制できると考える傾向が強いように思われる。
 こうしたリスクと向き合う際の基本的態度の差異は、リスク・ガバナンスにおける様々な相互作用を通して時に増幅し、あるいは様々なディスコミュニケーションの原因となる。そのことが、リスク・ガバナンスにおいて見過ごせない社会的逆機能を生じている可能性も大いに懸念される。
 そこで、本稿では、本セッションのテーマである「基準地震動」の考え方を含む、原子力施設の耐震対応の問題をはじめとするいくつかの事例を取り上げて、リスク・ガバナンスにおける理学—工学の相互作用とギャップ、それらに起因する諸課題について、科学技術社会論分野の知見を参照して検討し、社会的逆機能の解消・防止のアイデアやそれを実現するためのしくみを構想したい。