JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ]Eveningポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG36] [JJ] 海岸低湿地における地形・生物・人為プロセス

2017年5月20日(土) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[HCG36-P02] マングローブ泥炭堆積域における群落レベルでの海面上昇影響の実態と近未来予測(予報)

*藤本 潔1小野 賢二2渡辺 信3谷口 真吾4Lihpai Saimon5 (1.南山大学総合政策学部、2.森林総合研究所東北支所、3.琉球大学熱帯生物圏研究センター、4.琉球大学農学部、5.ミクロネシア連邦ポンペイ州政府)

キーワード:Sea-level rise, Mangrove peat, Surface erosion, Pohnpei Island, Oceanic island

温暖化に伴う海面上昇は確実に進行しつつある。IPCC(2013)によると1901~2010年の間に全球平均で17~21cm上昇し、今世紀末までには1986~2005年平均と比べ26~82cm上昇する可能性が高いと予測されている。本研究対象地域のミクロネシア連邦ポンペイ島では、長期的には1.8mm/yr (1974~2004年)と全球平均とほぼ同様の速度での海面上昇が観測されているものの、短期的には16.9mm/yr (2002~2010年)と急激な上昇が確認されている(Australian Bureau of Meteorology 2010)。海面上昇に対してマングローブ林が生き残ることができるか否かは、そこでの潜在的な堆積可能速度と海面上昇速度の相対関係で決まる(藤本ほか 1989)。堆積可能速度は河川等による外部からの土砂供給がみられる立地では、それによる埋積速度とマングローブ泥炭堆積速度の和で求まるが、土砂流入がみられない立地では、マングローブ泥炭堆積速度のみで決まる。土砂流入がほとんど見られない立地にはRhizophora属が優占する群落が成立してマングローブ泥炭が堆積する(Fujimoto et al. 1999など)。マングローブ泥炭堆積可能速度は2mm/yr以上、5mm/yr未満と見積もられており(Miyagi et al. 1995)、マングローブ泥炭堆積域では年5mm以上の速さで進行する海面上昇に対しては、その立地を維持できないことが予測されている。本発表ではマングローブ泥炭によって立地が形成されているポンペイ島のマングローブ林において、主として昨年9月の現地調査で確認された表層侵食/堆積の実態から、海面上昇の影響について群落レベルで予察的に考察することを目的とする。
最も海側に成立する群落で、極めて高密度の呼吸根が発達するSonneratia alba林では、海側林縁部の呼吸根の根元に本来地中に存在するはずの中根サイズの根が地表面に露出していることが確認された。この現象は林縁部から20m内陸側ではほとんど確認されなくなる。海側に約10m幅のRhizophora stylosa群落が発達し、その背後に成立したBruguiera gymnorrhiza優占林(Xylocarpus granatumS. albaおよびRhizophora apiculataをわずかに伴う)では、本来地中に発達するはずのB. gymnorrhizaの支柱根状の根が露出し、根元には地表面との間に隙間が生じていることが確認された。ここではS. albaのケーブル根の露出やX. granatumの板根と地表面との間に隙間が生じていることも確認された。この林分の20m×20mの範囲内のB. gymnorrhiza全立木に対し、根元に生じた隙間高を表層侵食の指標として計測したところ、その平均値は42.8cmに達していた。このプロット内の地盤高はほとんどが平均海面下にあり、B. gymnorrhiza林の立地としては明らかに低いことから、全体的に表層侵食が進みつつあることは明白である。これに対し、S. alba同様に最も海側に発達するRhizohpra stylosa林では表層侵食は確認できない。また海側林縁部から300m程内陸側に位置するR. apiculata優占林ではその支柱根が地中に埋まりつつあり、マングローブ泥炭による堆積が進みつつある可能性が指摘できる。
以上の事実から、Rhizophora 属が優占する林分では現段階では海面上昇の影響は表れていないのに対し、植生遷移でその立木密度が低下した林分やS. alba林では表層侵食が進みつつあり、今後成長速度の低下や、立ち枯れ、倒木などの影響が生じる可能性が指摘される。