JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ]Eveningポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG37] [JJ] 熊本地震から学ぶ活断層と地震防災

2017年5月21日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[HCG37-P03] 地震発生層以浅に適用可能なすべり速度時間関数の評価

*田中 信也1引間 和人2久田 嘉章3 (1.東電設計株式会社、2.東京電力ホールディングス株式会社、3.工学院大学)

キーワード:震源近傍、すべり速度時間関数、震源インバージョン、強震動予測

1.はじめに
2016年熊本地震(Mw7.0)では,主として布田川-日奈久断層帯に沿った広い範囲に地表地震断層が出現し,地震動やフリングステップによる建物の被害が見られた。活断層が多く存在する日本においては,地表地震断層近傍における地震動やフリングステップの予測が必要と考えられる。地表地震断層近傍において地震動評価を行う場合,理論的手法に基づく方法を用いることが考えられるが,地震発生層以浅のすべり速度時間関数に関する研究は少ない。一方,引間ほか(2015)では,2014年長野県北部の地震(Mw6.3)を対象に震源インバージョン解析を行い,震源の深部と浅部とですべり速度時間関数の形状が異なる点を指摘している。ここでは,地表地震断層近傍の観測記録と震源逆解析結果を用いて地震発生層以浅に適用可能なすべり速度時間関数の評価を行う。

2.1999年集集地震を対象とした検討
1999年集集地震の断層面北部では,地表地震断層近傍において3つの観測記録が得られている(TCU068,TCU102,TCU052)。この内,TCU068とTCU052は上盤側,TCU102は下盤側であり,いずれも地表地震断層から2km程度以内の距離にある。まず,図1に示すWu et al.(2001)による逆解析モデルを用いて理論的手法により観測記録の再現を行った。観測記録の再現結果を図2に示す。逆解析モデルは,上盤側のTCU068とTCU052の観測記録を良く再現できている(case1)。また,観測点近傍の小断層(長さ約10km×幅6km)が支配的な傾向が確認できる(case2)。さらに,観測記録に見られるフリングパルスと観測点近傍の小断層のすべり速度時間関数は良く似ていることから,観測点近傍の小断層のすべり速度時間関数から,すべり速度時間関数を三角形関数でモデル化することを試みた(case3)。TCU068周辺の小断層の平均的なすべり量8.2mに対して三角形関数の幅は5秒,TCU052周辺の小断層の平均的なすべり量12.1mに対して三角形関数の幅は7秒と評価した。三角形関数でモデル化した場合でも,観測記録を良く再現できることが確認できる。
一方,下盤側のTCU102では,速度波形が複雑であり,すべり速度時間関数の形状と異なる。また,速度波形においては,観測点近傍の小断層が必ずしも支配的とは言えない。これは,断層面の傾斜角が30°と低角なことから,上盤側よりも下盤側の変位量が小さいためと考えられる。このことは,地表地震断層近傍の観測記録のみから,すべり速度時間関数を求めることが難しい場合があることを示している。また,地表地震断層近傍の観測記録を用いて震源逆解析を行った場合でも,断層面の形状と観測点の位置関係によっては,得られるすべり速度時間関数の精度が低い可能性も考えられる。なお,TCU102については,周辺の小断層の平均的なすべり量9.6mに対して三角形関数の幅は6秒と評価し,震源逆解析の傾向を再現できることを確認した。

3.地震発生層以浅に適用可能なすべり速度時間関数の評価
前述の検討結果を踏まえ,他の地震についても,観測点近傍の小断層を用いて,観測記録,あるいは震源逆解析による再現結果を表現できるすべり速度時間関数(三角形関数の幅)を求めた。観測点近傍の小断層における平均的なすべり量と,すべり速度時間関数の幅の関係を図3に示す。また,逆解析モデルによる観測記録の再現性が十分でないため,震源断層モデルに仮定を設けた観測点(例えば,2016年熊本地震の西原村)についても併せて示している。今後,これらの記録について再現性の向上をはかるとともに,他の地震への適用性について検証したいと考えている。

謝 辞
原子力規制庁の呉長江博士には1999年Chi-Chi地震の震源インバージョン結果をご提供頂きました。ここに,記してお礼を申し上げます。