JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ]Eveningポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG37] [JJ] 熊本地震から学ぶ活断層と地震防災

2017年5月21日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[HCG37-P08] 2016年熊本地震における中程度被災家屋の空間分布解析

*永井 裕人1夏秋 嶺1 (1.国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)

キーワード:リモートセンシング、ALOS-2、地形学、干渉性

2016年4月14日以降に熊本周辺で相次いで発生したM6~7級の一連の地震では、被災後にブルーシートが被せられた家屋が非常に多く見られ、またそれらは不均一な分布のようにみられた。本研究では、このような建物被害処置の有無に建物被害の空間的な偏りが表れているとみなし、その空間分布をマッピングし、地形学的要素との関係を調べるとともに、衛星リモートセンシングでの早期被害分布把握の可能性を検討した。

無償のデジタル地球儀として一般市民にも広く普及しているGoogle Earthには2017年1月現在、熊本市街地を中心とする範囲において、地震から数週間後に航空機から撮られた写真を3次元モデル化した建築物などの地表物が表示され、任意の視点から閲覧することができる。このうち屋根にビニールシートが被せられたものを一つ一つ目視で確認し、その緯度経度を「中程度被災家屋」としてすべて記録していった。ほとんどが一戸建て木造家屋の瓦屋根であるが、商業ビルの屋上に被せられたシートも含む。主たる青色のシートほか緑や白のシートも含め、複数のシートが被されている場合には1家屋を1点と定義した。ビニールハウス、建物外の地物(車両など)、もともとシートに覆われていた可能性の高い建築中の建物は除外した。そして、国土地理院が公開する基盤地図情報から該当地域の建物情報を入手し、これをもともとの建物の空間分布とした。

作業の結果、抽出された建物は165,177戸中15,675戸であり、建物全体の9.5%に至る。建築物が立地する地形の特徴を把握するために、国土地理院より治水地形分類図を入手し、地理情報システムを用いて、記載された位置情報をもとに手動で位置情報を付与した。全建物は40.2%が段丘に、14.8%が扇状地に、15.0%が氾濫原に、8.0%が自然堤防に位置していた。そのうち中程度被災家屋の割合は段丘が13.0%、扇状地が5.5%、氾濫原が5.3%、自然堤防が6.7%であり、それら以外のカテゴリーでは3−10%の間にあった。この解析から、今回の被害は特に段丘上の建物に集中し、扇状地・氾濫原・自然堤防ではその半分程度の被害率であることが分かった。熊本地震の場合の益城町のような全壊に至る壊滅的被害は断層に近いほど顕著にみられるが、補修後の使用が見込まれる程度の被害の発生には、堆積地形の種類との間に明確な相関関係がみられることが明らかとなった。今後、その要因や今回のような内陸型地震あるいは連動型地震の特性を踏まえた議論を展開させる必要がある。

更に、地表面のレーダー反射特性が著しく変化すると合成開口レーダー(SAR)観測データの干渉処理において干渉性が大きく低下することを利用し、建物被害分布の自動抽出を試みた。本研究では陸域観測技術衛星「だいち2号(ALOS-2)」搭載のPALSAR-2によって得られた2015年11月30日、2016年3月7日(ともに被災前), 2016年4月18日(被災後)から正規化された干渉性低下度を算出し、その空間分布を上記の中程度被災家屋分布と比較した。中程度被災家屋の中心点における干渉性低下度のヒストグラム(平均値・標準偏差:0.305±0.145)と全家屋のそれ(0.355±0.154)を統計的に比較したところ、干渉性は屋根の損傷によって有意に低下する傾向が認められた。しかしながらそれらのヒストグラム分布は最尤値が近いため、実利用可能な自動抽出に発展させるためには更なる改良が必要とされる。