[HCG37-P12] 実被害情報を融合した2016年熊本地震の住宅被害推定シミュレーション
キーワード:熊本地震、ベイズ更新、震災後被害推定
1.はじめに
災害発生直後の初動対応の意思決定を支援することを目的に、大地震のような広域にわたる災害が発生した場合でも被害全体をリアルタイムに推定、状況を把握できるようにすることを目指して、被害推定・状況把握システムの開発が進められている*。このシステムは、強震観測網K-NETやKiK-netなどのデータを用い、地震発生直後に面的な地震動分布を各4分の1地域メッシュ(250mメッシュ)で行い、それを入力とし、全国規模の建物モデルに被害関数を適用することで全壊棟数や全半壊棟数等の推定をする。さらに実際の被害情報を融合させることで、推定精度を上げる方法についても開発が進められている**. 本報では、 実際に生じた被害の情報(実被害情報)として、熊本地震で得られた空中写真から判読した被害データを利用して融合することで、被害推定の精度を向上させた事例を報告する。
2.実被害情報と推定情報の融合方法
本システムでは、まず被害関数と住宅棟数データを事前に整備しておき、発災後、比較的短い時間で得られる地震動強さの推定値を用いて被害率を推定する(即時推定)。その際、即時推定に用いる被害関数のパラメタは、推定誤差が確率変数でモデル化されている。そこで、推定誤差の平均や標準偏差などの確率分布の母数について、実被害情報を「観測」として利用してベイズ更新することで、実被害情報と事前の推定情報を融合する。
3.空中写真による実被害情報の取得
本報告で利用した実被害情報は、熊本地震の発生後にヘリコプターから撮影した斜め写真を用いて各建物の被害を目視等によって判読したデータ***を基に作成した、各250mメッシュに含まれる半壊棟数と全壊棟数である。ここでは、早期に推定精度を向上させる手法の検討として、判読データの一部を以下の方法で抽出して情報融合した。すなわち、被害データを判読した地域メッシュのうち、20棟以上住宅が存在する地域メッシュを、微地形区分に基づき数種類のグループに分別し、各グループから同じ数の地域メッシュをランダムにサンプリングして、その地域メッシュの被害棟数を融合するものである。
4.シミュレーション結果
強震記録を補間した計測震度分布と中央防災会議(2012)の被害関数を用いて即時推定を実施したところ、推定結果は実際の被害棟数を4倍程度過大評価するものであった。これに対して、計測震度から甚大な被害が予測される地域として益城町、被災地の典型的な地域の一例として熊本市東区を選び、3.に述べた手順で抽出したそれぞれ10メッシュの実被害情報を融合すると、実際の被害棟数によく整合する推定に更新された。このほか、益城町からのみ20メッシュの実被害情報を融合したケースでは十分に推定被害がなされず更新が不十分になり、逆に熊本市東区からのみ20メッシュの情報を融合したケースでは融合後の推定が過小評価になった。
謝 辞
本研究は、総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施された。また、地方公共団体及び気象庁の震度データは気象庁より提供して頂いている。
参考文献
*中村ほか(2015):リアルタイム地震被害推定・状況把握システムの開発状況、日本地震工学会年次大会梗概集.
**Kusaka et al. (2017): Bayesian updating of damaged building distribution in post-earthquake assessment, 16WCEE.
***門馬ほか(2016):平成 28 年熊本地震における益城町の震度分布と建物被害の関係の関係、日本地震工学会年次大会梗概集.
災害発生直後の初動対応の意思決定を支援することを目的に、大地震のような広域にわたる災害が発生した場合でも被害全体をリアルタイムに推定、状況を把握できるようにすることを目指して、被害推定・状況把握システムの開発が進められている*。このシステムは、強震観測網K-NETやKiK-netなどのデータを用い、地震発生直後に面的な地震動分布を各4分の1地域メッシュ(250mメッシュ)で行い、それを入力とし、全国規模の建物モデルに被害関数を適用することで全壊棟数や全半壊棟数等の推定をする。さらに実際の被害情報を融合させることで、推定精度を上げる方法についても開発が進められている**. 本報では、 実際に生じた被害の情報(実被害情報)として、熊本地震で得られた空中写真から判読した被害データを利用して融合することで、被害推定の精度を向上させた事例を報告する。
2.実被害情報と推定情報の融合方法
本システムでは、まず被害関数と住宅棟数データを事前に整備しておき、発災後、比較的短い時間で得られる地震動強さの推定値を用いて被害率を推定する(即時推定)。その際、即時推定に用いる被害関数のパラメタは、推定誤差が確率変数でモデル化されている。そこで、推定誤差の平均や標準偏差などの確率分布の母数について、実被害情報を「観測」として利用してベイズ更新することで、実被害情報と事前の推定情報を融合する。
3.空中写真による実被害情報の取得
本報告で利用した実被害情報は、熊本地震の発生後にヘリコプターから撮影した斜め写真を用いて各建物の被害を目視等によって判読したデータ***を基に作成した、各250mメッシュに含まれる半壊棟数と全壊棟数である。ここでは、早期に推定精度を向上させる手法の検討として、判読データの一部を以下の方法で抽出して情報融合した。すなわち、被害データを判読した地域メッシュのうち、20棟以上住宅が存在する地域メッシュを、微地形区分に基づき数種類のグループに分別し、各グループから同じ数の地域メッシュをランダムにサンプリングして、その地域メッシュの被害棟数を融合するものである。
4.シミュレーション結果
強震記録を補間した計測震度分布と中央防災会議(2012)の被害関数を用いて即時推定を実施したところ、推定結果は実際の被害棟数を4倍程度過大評価するものであった。これに対して、計測震度から甚大な被害が予測される地域として益城町、被災地の典型的な地域の一例として熊本市東区を選び、3.に述べた手順で抽出したそれぞれ10メッシュの実被害情報を融合すると、実際の被害棟数によく整合する推定に更新された。このほか、益城町からのみ20メッシュの実被害情報を融合したケースでは十分に推定被害がなされず更新が不十分になり、逆に熊本市東区からのみ20メッシュの情報を融合したケースでは融合後の推定が過小評価になった。
謝 辞
本研究は、総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施された。また、地方公共団体及び気象庁の震度データは気象庁より提供して頂いている。
参考文献
*中村ほか(2015):リアルタイム地震被害推定・状況把握システムの開発状況、日本地震工学会年次大会梗概集.
**Kusaka et al. (2017): Bayesian updating of damaged building distribution in post-earthquake assessment, 16WCEE.
***門馬ほか(2016):平成 28 年熊本地震における益城町の震度分布と建物被害の関係の関係、日本地震工学会年次大会梗概集.