JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EE]Eveningポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM03] [EE] Geomorphology

2017年5月22日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[HGM03-P06] 三陸海岸中・南部の津波常襲地域における地形特性・集落立地の再評価

*瀬戸 真之1岩船 昌起2田村 俊和3 (1.福島大学うつくしま福島未来支援センター、2.鹿児島大学、3.東北大学)

キーワード:piedmont gentle slopes, tsunami, human activity

三陸海岸の中・南部では,高位海成段丘が広い北部(宮古付近以北)とは対照的に,湾岸に小さな段丘状地形が点在するとされてきた.しかし,現実には段丘堆積物や旧汀線を確認できないものが多く,とくに花崗岩類から成る地域では,むしろ山麓緩斜面的な形状を示すところが少なくない.船越半島とその周辺の山麓緩斜面を調査し,次のようなことが判明した. (1) 縦断勾配3~15度の緩斜面が,海抜70~90m付近で背後の急斜面から画然と区別される.なだらかな尾根状を呈する高位緩斜面と,その間から前面にかけて広がる,あまり開析されていない谷状の低位緩斜面とに分けられ,前者はさらに細分可能とみられる.(2) 高位緩斜面の地表下には,ほとんどの場合赤色土を発達させた深層風化花崗岩があり,風化角礫を含む層も一部に認められるのに対して,低位緩斜面は比較的新鮮な花崗岩角礫を主とする厚さ数m以下の堆積物で構成され,その基底は赤色風化断面を切っている.背後山地から続く開析谷の一部は土石流危険渓流に指定されている.(3) 低位面は,前面を完新世の海食崖に切られていることが多いが,延長が沖積層下底面に連続しているとみることができる.一方,上流山地内へは,多少開析された皿状の谷底面に連なる.これらの事実から,第四紀後期における山麓緩斜面の発達過程を論じることができる.
​ 一方,このような位置,形態,構成物質の特徴をもつ地形には,半農半漁の集落が立地し,度々津波に襲われてきた.この地域の地形を「住民の目線」から捉えると次のようになろう.1.海食崖:農地や居住地を作りにくい上に,汀線へのアクセスも悪い.2.河成・海成平野:三陸海岸の中では広く低平な土地が広がっており,海岸へのアクセスも良く,農地も作りやすい.反面,最も津波の被害を受けやすい地形で,津波来襲時には長い距離を移動しないと安全な場所まで到達できない.3.山麓緩斜面:海成・河成平野と接しており,傾斜が緩く,表層物質はマサ土で時に角礫が混じる程度なので,人力による若干の地形改変で畑地や居住地を作り,維持することができる.その一部には古くから集落が立地し,また津波来襲時の避難先や被災後の集落の移転先として利用されてきた.
​ たとえば山田湾東岸の大浦では,明治以前から海に接した山麓緩斜面に小さな段を作って集落が立地し,一段上の宅地との間には道路とは別に階段が設けられていた所もある.船越湾北岸の地峡部の低地にあった船越は,明治津波で大きく被災した後,西側の山麓緩斜面に計画的な集落を作って全面的に移転した.同じく明治津波でほとんど壊滅した田の浜では,集落のあった船越湾岸小低地の背後に山麓緩斜面を一部改変して集落用地を造成しながら,ほとんど農地としてしか用いず,昭和津波の被災後ようやくそこを拡張して移転しながら,低地にも再び家屋が増え,チリ地震津波でも今回の津波でも被災した.
​ 上にその一端を紹介した集落の立地・移転の歴史は,住民が,非日常的災害と日常的生活・生業およびその時代的変化との関係で,地形のある側面を評価し,利用してきた結果である.その「住民の目線」に立った行動を,地形形成過程も含む「地形学の知見」に照らして再整理しておくことは,地形認識論,地形資源論,そして次の災害に備えた防災・減災論の展開に役立つであろう.