[HGM04-P07] 関東地方,荒川狭窄部における最終氷期の本流河床高度に関する再検討
キーワード:河成段丘、荒川、河床縦断面形、最終氷期、支流、Toe-cut terrace
氷期に堆積段丘が形成された東北~中部日本の河川上流域では,一般に急勾配の支流が頻繁に合流する.そのため,氷期―間氷期の気候変動に伴う本流の河床縦断面形変化を復元するには,支流による土砂供給の影響を評価する必要がある.高橋・須貝(2016)は,多摩川上流域に分布する最終氷期の堆積段丘面の成因を再検討し,堆積段丘面がToe-cut terrace(支流性扇状地が本流の側方侵食によって段丘化した地形面: Larson et al., 2015)であり,堆積段丘面の高度は,最終氷期の本流の河床高度よりも7~23 m高いことを示した.多摩川と同様に,東北~中部日本の諸河川においてもToe-cut terraceを認定し,本流の河床高度の変化を再検討する必要がある.
荒川は,秩父山地に端を発し,秩父盆地を貫流した後,皆野~寄居区間の狭窄部を経て関東平野へ流出し,扇状地を形成している.荒川流域に発達する河成段丘面群については,柳田ほか(1982),吉永・宮寺(1986)などの研究があり,氷期―間氷期サイクルに伴う本流の河床高度変化が明らかにされているが,支流の合流による影響は十分には検討されていない.特に,皆野~寄居区間の狭窄部は,秩父盆地と下流の扇状地における段丘面の連続性や相互関係,流域全体の縦断面形変化の理解に不可欠でありながら,最終氷期中の本流の河床高度について,支流合流の影響を踏まえた情報が得られているとはいいがたい.本報告では,荒川狭窄部(皆野~寄居区間)に分布する河成段丘面について,支流性堆積物による影響を踏まえ詳細な地形面区分を行ない,一部の段丘面がToe-cut terraceである可能性,および最終氷期中の本流の河床高度変化について再検討する必要があることを指摘する.
吉永・宮寺(1986)によると,荒川狭窄部に分布する河成段丘面は,高位から親鼻(Ob)面,影森(Km)面,大野原(On)面に区分される.Ob面は層厚10 m以上の赤色風化した礫層を,Km面は層厚約30 mの未風化の礫層を伴うことから,Ob面およびKm面は堆積段丘面,On面は薄い礫層を持つことから,侵食段丘面であると考えられている. Ob面およびKm面は,主に支流合流点付近に分布する.両段丘面は緩斜面状の地形面を呈し,Ob面は200~70 ‰程度,Km面は80~40 ‰程度の勾配で本流方向に傾斜する.また,Ob面およびKm面は,明瞭な段丘崖によって下位の段丘と隔てられる.これらの地形学的特徴から,Ob面およびKm面はToe-cut terraceであり,最終氷期中の本流の河床面を示す地形面ではない可能性が示唆される.
Ob面およびKm面を河谷横断方向における勾配を保ったまま本流方向へと延長することで,Ob面およびKm面形成期の本流の河床高度を推定することが可能である.これによって得られるOb面およびKm面形成期の本流の河床縦断面形は,上流に向かってOn面のそれに収斂すると考えられる.柳田ほか(1982)は,Ob面およびKm面が上流に向かってOn面に収斂することを示し,また,Ob面およびKm面は,寄居より下流の扇状地部における櫛引面(MIS 5c~5a)および寄居面(MIS 3)にそれぞれ相当するとして,海水準低下に伴う下流域の下刻が上流へと波及したと考えた.これに対し,吉永・宮寺(1986)は,Ob面は赤色風化した礫を含むことから,Km面と区別され,Ob面の縦断面形はOn面のそれに収斂しないものと考えた.Ob面およびKm面が最終氷期に形成されたToe-cut terraceであり,最終氷期中の本流河床高度がより低位置に見直され,上流に向かってOn面に収斂するとすれば,柳田ほか(1982)の考えと調和的である.
本発表では,段丘堆積物の編年や,本流性・支流性の識別に基づく堆積段丘構成層中の本流性堆積物の上限高度の認定を行い,荒川狭窄部における最終氷期中の本流の河床高度変化や各段丘面の縦断面形の収斂関係に関して検討した結果を報告する予定である.
引用文献
Larson et al. (2015) Progress in Physical Geography 39, 417-439.
高橋・須貝(2016)日本地理学会発表要旨集,89,280.
柳田ほか(1982)駒沢大学大学院地理学研究,12,3-13.
吉永・宮寺(1986)第四紀研究,25(3),187-201.
荒川は,秩父山地に端を発し,秩父盆地を貫流した後,皆野~寄居区間の狭窄部を経て関東平野へ流出し,扇状地を形成している.荒川流域に発達する河成段丘面群については,柳田ほか(1982),吉永・宮寺(1986)などの研究があり,氷期―間氷期サイクルに伴う本流の河床高度変化が明らかにされているが,支流の合流による影響は十分には検討されていない.特に,皆野~寄居区間の狭窄部は,秩父盆地と下流の扇状地における段丘面の連続性や相互関係,流域全体の縦断面形変化の理解に不可欠でありながら,最終氷期中の本流の河床高度について,支流合流の影響を踏まえた情報が得られているとはいいがたい.本報告では,荒川狭窄部(皆野~寄居区間)に分布する河成段丘面について,支流性堆積物による影響を踏まえ詳細な地形面区分を行ない,一部の段丘面がToe-cut terraceである可能性,および最終氷期中の本流の河床高度変化について再検討する必要があることを指摘する.
吉永・宮寺(1986)によると,荒川狭窄部に分布する河成段丘面は,高位から親鼻(Ob)面,影森(Km)面,大野原(On)面に区分される.Ob面は層厚10 m以上の赤色風化した礫層を,Km面は層厚約30 mの未風化の礫層を伴うことから,Ob面およびKm面は堆積段丘面,On面は薄い礫層を持つことから,侵食段丘面であると考えられている. Ob面およびKm面は,主に支流合流点付近に分布する.両段丘面は緩斜面状の地形面を呈し,Ob面は200~70 ‰程度,Km面は80~40 ‰程度の勾配で本流方向に傾斜する.また,Ob面およびKm面は,明瞭な段丘崖によって下位の段丘と隔てられる.これらの地形学的特徴から,Ob面およびKm面はToe-cut terraceであり,最終氷期中の本流の河床面を示す地形面ではない可能性が示唆される.
Ob面およびKm面を河谷横断方向における勾配を保ったまま本流方向へと延長することで,Ob面およびKm面形成期の本流の河床高度を推定することが可能である.これによって得られるOb面およびKm面形成期の本流の河床縦断面形は,上流に向かってOn面のそれに収斂すると考えられる.柳田ほか(1982)は,Ob面およびKm面が上流に向かってOn面に収斂することを示し,また,Ob面およびKm面は,寄居より下流の扇状地部における櫛引面(MIS 5c~5a)および寄居面(MIS 3)にそれぞれ相当するとして,海水準低下に伴う下流域の下刻が上流へと波及したと考えた.これに対し,吉永・宮寺(1986)は,Ob面は赤色風化した礫を含むことから,Km面と区別され,Ob面の縦断面形はOn面のそれに収斂しないものと考えた.Ob面およびKm面が最終氷期に形成されたToe-cut terraceであり,最終氷期中の本流河床高度がより低位置に見直され,上流に向かってOn面に収斂するとすれば,柳田ほか(1982)の考えと調和的である.
本発表では,段丘堆積物の編年や,本流性・支流性の識別に基づく堆積段丘構成層中の本流性堆積物の上限高度の認定を行い,荒川狭窄部における最終氷期中の本流の河床高度変化や各段丘面の縦断面形の収斂関係に関して検討した結果を報告する予定である.
引用文献
Larson et al. (2015) Progress in Physical Geography 39, 417-439.
高橋・須貝(2016)日本地理学会発表要旨集,89,280.
柳田ほか(1982)駒沢大学大学院地理学研究,12,3-13.
吉永・宮寺(1986)第四紀研究,25(3),187-201.