[HQR05-P03] 三陸海岸における谷底低地の津波遡上と河川地形
ー2011年東北地方太平洋沖地震津波の浸水範囲にもとづく検討-
キーワード:2011年東北地方太平洋沖地震、三陸海岸、津波遡上、谷底低地、河床縦断面形、津波浸水マップ
巨大地震に伴う津波が陸上を遡上するプロセスに関する理解を深めることは,津波遡上に伴う災害予測の精度を高めることに加えて,過去の津波記録から地震の規模・頻度を正確に読み解く上で重要である.しかし,巨大地震に伴う津波遡上は過去100年間に数えるほどしか知られておらず,津波の陸上における実際のふるまいについての研究は限られている.2011年東北地方太平洋沖地震(M 9.0)によって発生した地震津波は,東日本の太平洋側沿岸地域に深刻な被害をもたらした.2011年の地震直後から現在に至るまで,津波による被害や地形変化に関する多数の研究が蓄積されてきた.これらの研究は広域かつ詳細に津波浸水域を明らかにし,地震津波の陸上における実際の挙動を検討するための有用なデータを提供している.発表者らは既報の2011年の津波浸水域を参照し,河川に沿って発達する沖積低地(河口〜谷底低地)の地形と,それらの沖積低地における津波浸水範囲を比較した.その結果にもとづき,河川地形,特に河床縦断面形状が,津波の陸上でのふるまいにおいてどのような影響を持つかを検討したので報告する.
本研究では,南北に伸びる三陸海岸のうち,北端を久慈湾,南端を女川湾とする範囲を研究対象とした.研究対象地域は全体として岩石海岸が卓越し,海岸に河口を持つ河川群が河口〜谷底低地を発達させている.これらの河川群から,集水域面積が5 km2以上の河川(68河川)を抽出した.ただし,近代における人為的流路変遷をうけた北上川は研究対象から除いた.68の河川のうち集水域面積は最大で946 km2に達する.河床勾配は集水域面積の多様性を反映して河川間で変化に富む.浸水範囲は原口・岩松(2013)を参照し,1:25,000スケールの地形図上で各河谷の流路に沿った遡上限界距離・高度を求めた.遡上限界は,堤外地(Channel Zone.以下ではCZ)と堤内地(Protected Zone.以下ではPZ)のそれぞれで求めた.また,各河川が位置する湾の地形指標として,河口の外洋に対する開度を求めた.作業を進めるにあたり,基図には1:25,000地形図を用い,国土地理院が公開している10mメッシュの数値標高モデル(DEM)の解析結果を重ね合わせて解析を行った.
遡上限界距離・高度は河川間でおおきくばらつく.遡上限界距離はCZおよびPZにおいてそれぞれ0.35−8.75 kmおよび0.25−6.80 kmであり,遡上限界高度はCZおよびPZにおいてそれぞれ5.80−27.7 mおよび3.80−34.8 mである.各河川でみてみると,遡上限界距離・高度はCZにおいてPZよりも大きな値をとる.遡上限界高度を遡上限界距離で除した比は,浸水域における平均的な河床縦断勾配となる.平均河床縦断勾配と遡上限界距離は負の相関を,平均河床縦断勾配と遡上限界高度は正の相関を示す.他方で,遡上限界距離・高度は海岸形状や各河川の位置との関係をみてみると,それらの間には明瞭な相関関係は認められない.これらの結果は,谷底低地における遡上限界距離・高度が河床縦断面形によって強く制約されたことを示す.また,人工構造物や植生が密なPZに比べてCZでは遡上限界距離・高度が大きな値をとることは,CZにおいてはPZに比べて遡上による浸水範囲が速やかに拡大したことを示唆する.以上の結果は津波遡上範囲から地震津波の規模を回帰的に推定する上で,陸上における地形と地表の状態(土地利用や植生など)が津波の陸上でのふるまいに与える影響を適切に評価することが重要であることを示す.
本研究では,南北に伸びる三陸海岸のうち,北端を久慈湾,南端を女川湾とする範囲を研究対象とした.研究対象地域は全体として岩石海岸が卓越し,海岸に河口を持つ河川群が河口〜谷底低地を発達させている.これらの河川群から,集水域面積が5 km2以上の河川(68河川)を抽出した.ただし,近代における人為的流路変遷をうけた北上川は研究対象から除いた.68の河川のうち集水域面積は最大で946 km2に達する.河床勾配は集水域面積の多様性を反映して河川間で変化に富む.浸水範囲は原口・岩松(2013)を参照し,1:25,000スケールの地形図上で各河谷の流路に沿った遡上限界距離・高度を求めた.遡上限界は,堤外地(Channel Zone.以下ではCZ)と堤内地(Protected Zone.以下ではPZ)のそれぞれで求めた.また,各河川が位置する湾の地形指標として,河口の外洋に対する開度を求めた.作業を進めるにあたり,基図には1:25,000地形図を用い,国土地理院が公開している10mメッシュの数値標高モデル(DEM)の解析結果を重ね合わせて解析を行った.
遡上限界距離・高度は河川間でおおきくばらつく.遡上限界距離はCZおよびPZにおいてそれぞれ0.35−8.75 kmおよび0.25−6.80 kmであり,遡上限界高度はCZおよびPZにおいてそれぞれ5.80−27.7 mおよび3.80−34.8 mである.各河川でみてみると,遡上限界距離・高度はCZにおいてPZよりも大きな値をとる.遡上限界高度を遡上限界距離で除した比は,浸水域における平均的な河床縦断勾配となる.平均河床縦断勾配と遡上限界距離は負の相関を,平均河床縦断勾配と遡上限界高度は正の相関を示す.他方で,遡上限界距離・高度は海岸形状や各河川の位置との関係をみてみると,それらの間には明瞭な相関関係は認められない.これらの結果は,谷底低地における遡上限界距離・高度が河床縦断面形によって強く制約されたことを示す.また,人工構造物や植生が密なPZに比べてCZでは遡上限界距離・高度が大きな値をとることは,CZにおいてはPZに比べて遡上による浸水範囲が速やかに拡大したことを示唆する.以上の結果は津波遡上範囲から地震津波の規模を回帰的に推定する上で,陸上における地形と地表の状態(土地利用や植生など)が津波の陸上でのふるまいに与える影響を適切に評価することが重要であることを示す.