JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ]Eveningポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR05] [JJ] ヒト-環境系の時系列ダイナミクス

2017年5月25日(木) 15:30 〜 16:45 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[HQR05-P13] カナリア諸島テネリフェ島における黒曜石の産状とスペイン植民以前の遺跡に関する予備的調査成果

*中沢 祐一1ベガ・マエソ クリスティーナ2カルモナ・バレステロ エドワルド3リゼト ジョン4ベルソーサ・オルダス アルベルト3直江 康雄5土肥 研晶5新家 水奈5デル・アルコ・アギラール メルセデス6 (1.北海道大学大学院医学研究科、2.カンタブリア大学、3.ブルゴス大学、4.ネブラスカ州歴史協会、5.北海道埋蔵文化財センター、6.テネリフェ考古博物館)

キーワード:Tenerife Island, Obsidian, Lava flow, Pre-Hispanic, Resource exploitation

カナリア諸島は北アフリカの大西洋沖に位置する東西490kmに及ぶ火山列島である.テネリフェ島はカナリア諸島の中央に位置し,リフトゾーンの活動によって山地形成とカルデラ崩壊が繰り返されており,現在も火山活動が活発である(Carracedo and Troll, 2013).テネリフェ島では11.9Maから火山活動が始まり,3つのステージを経て,3.5MAには現在のテネリフェ島の90%に相当する容量が形成された(Carracedo and Perez-Torrado, 2013).島の中央部のラス・カニャーダス・カルデラ火山が最も新規に形成された地域であり,その中央部にはテイデやピコ・ヴィエホなどの海抜3000m級の火山を擁する.15世紀のスペイン人による入植以前からテネリフェ島の先住民であったグアンチェスは,完新世の活発な火山活動の中で生存してきた.モロッコのベルベル人に起源するグアンチェス(Maca-Meyer et al., 2004)の生活は,狩猟・採集およびオオムギなどの栽培植物の利用によって特徴づけられ,海産物も利用しており,海岸部では貝塚が残された.金属器をもたなかったものの,土器,石器,木器,骨角器などの道具を利用していた.中でも火山活動にともなって生成された黒曜石は,多数の先史時代の遺跡から確認されており,石器の原料として島内に広く用いられていた.本調査では,スペイン殖民以前の生活史を明らかにするための基礎データを収集することと,テネリフェ島というユニークな地質的・生物地理的環境における人間活動と火山との関係を明らかにすることを目的とした.資源のなかでも黒曜石に焦点をあてた.テネリフェ島内の黒曜石と遺跡の分布に関するデータが限定的であったため,予備的なフィールドワークを実施した.①ラス・カニャーダス火山の形成に伴う黒曜石の産状調査,②テネリフェ島南部乾燥地帯の沖積扇状地における遺跡分布調査,の2種類を実施した.①は,テイデ国立公園内にあり,すでに存在が知られているテイデ南側のタボナル・ネグロと北側のタボナル・ロス・グアンチェスの2ヵ所(Hernández Gómez and Galván Santos, 2008),および北側海岸部(チャルコ・デ・ヴィエント)の溶岩地帯の,計3ヵ所を踏査した.いずれの地点でも黒曜石は溶岩流の中に産出している状態にあった.タボナル・ネグロは黒曜石の巨礫が分布する場所であり,モンターニャ・ブランカに起源するフォネリティックな溶岩ドームのひとつであり,約2000年BPと見積もられている(Ablay et al. 1995).溶岩ドームを埋めるように扇状地が発達し,そこに石器・土器の散布を確認した.これらの散布地は海抜2270-2300mに位置する.一方,テイデ北側斜面の溶岩流に含まれるタボナル・ロス・グアンチェスでは,地表面に数キロにわたって黒曜石の礫が分布しており,石器の製作痕跡が多数確認できた.これらの地点は標高1500-1550mに位置する.この溶岩流はテイデ山から比較的最近噴出したラバス・ネグラスと呼ばれるフォネリティックな溶岩である.ラバス・ネグラス直下の炭化材から得られたAMSによる 14C年代が1150 ± 140 cal. BPであることから(Carracedo et al., 2013),グアンチェスがタボナル・ロス・グアンチェスの黒曜石を利用し始めたのはAD7世紀以降であることがわかる.テイデ火山周辺には,完新世の噴火に伴う溶岩が広がっており,火山層序ユニット(volcano-stratigraphic units)では周辺の溶岩ドーム(peripheral lava domes)と呼ばれる.黒曜石を採集した北側海岸部(チャルコ・デ・ヴィエント)はこの周辺の溶岩ドームの内,アベハラ・アルタ(Abejera Alta)と呼ばれる標高2500mの斜面から海岸まで10km続く溶岩ドームの末端に位置する.AMSによる 14C年代は5911 ± 264 cal. BPであることから(Carracedo et al., 2007, 2013),チャルコ・デ・ヴィエントの黒曜石の生成年代は6000年前を遡らないと考えられる.踏査した限り,溶岩の中に分布する黒曜石の中には石器の製作痕跡は見つからなかった.②のテネリフェ島南部の沖積扇状地における遺跡分布調査は,テイデ火山の南側のグラナディージャ地区で行った.この地域は地質的にはラス・カニャーダス火山であり,新第三紀から第四紀までの活動で隆起した南のリフトゾーンに含まれる.バランコ(barranco)と呼ばれる干上がった河川が樹枝状に発達する.3日間の踏査で,スペイン植民以前の遺物散布地点(遺跡)を32ヵ所記録した.内29か所で黒曜石の剥片を確認した.踏査地は溶結凝灰岩や降下軽石によっておおわれており,玄武岩層も含まれる.黒曜石は段丘堆積物の中に小礫を認めたが,数量はきわめて少ない.遺物である黒曜石の特徴は漆黒,半透明,緑黒色など多様であることも考えると,グアンチェスは黒曜石をグラナディージャ地区以外の遠隔地より得たと考えられる.多くの課題があるが,(1)黒曜石の産状調査,(2)黒曜石を含む溶岩の噴出年代と遺跡のある地形面の時期的関係,(3)スタンダードな方法による元素組成による黒曜石および他の石器石材の産地分析を実施することが重要である.本調査は,科学研究費補助金(No 26350374)の成果の一部である.