[HTT23-P10] 浅間火山トゥファ年輪の酸素・炭素同位体高分解能分析
キーワード:トゥファ、安定同位体、浅間火山
浅間火山は、日本列島で最も活動的な火山のひとつであり、山体とその周辺には数多くの湧水が存在する。このうち、南麓の濁川源泉は鉄質炭酸泉からなり、源泉から流出した水(濁川)は、1180年の大噴火の際に生じた追分火砕流を侵食し流下している。その河床には方解石を主体とするトゥファが沈積しており(現生トゥファ)、1年に1枚の縞、すなわち年縞が作られ、段丘涯には同様の縞構造を持つトゥファ(古トゥファ)が埋没している。本研究は、これらのトゥファ年輪に記録される情報を解明するために、月~季節単位で安定同位体比・化学成分分析を行い、それらの変動要因を検討した。安定同位体比測定では炭酸塩前処理装置付き同位体比質量分析計(総合地球環境学研究所既設)を使用し、樹脂で固化したトゥファ試料から0.1-0.2 mm間隔で削り出した150~200 μg中の方解石δ13C・δ18Oが測られた。化学成分分析では、電子線マイクロプローブアナライザー(EPMA, 東京大学地震研究所既設)でトゥファ薄片試料の点分析とマッピングが行われた。
濁川トゥファの縞構造は、1年に1枚の縞が作られる年縞からなり、夏季のMgに富む方解石と冬季のMnに富む方解石からなる。安定同位体比は現生及び古トゥファ共に、夏季のMgに富む縞(δ18O=-10.1‰, δ13C=-6.5‰)は、Mnに富む冬季の縞に比べて低い値(δ18O=-9.2‰, δ13C=-7.0‰)を示す。
河川水DIC-δ13Cと水質データ(水温、pH、アルカリ度)から推定されるCO32-起源の方解石δ13Cの理論値は平均値1.8‰、最大・最小値差3.5‰、トゥファ方解石δ13Cの平均値5.6 ‰、最大・最小値差0.57‰となり、トゥファの平均値が3.9‰大きく、最大・最小値差が約1/6倍となった。同様に、δ18Oについても、Zheng (1999)に基づく河川水δ18Oとトゥファδ18Oから推定される水温は、実測した濁川水温の年較差(約17°C)に比べて約1/6倍となった。平均値の差は、流下の際の急激なCO2脱ガスによる動的同位体効果によるものと考えられる。一方、最大・最小値差の原因については、(1)トゥファ年縞の変形構造に対するサンプリングによる平滑化、(2)縞の生成速度の変化、の2つの可能性が考えられる。方解石Mg/Caモル比と水のMg2+/Ca2+活量比の分配係数DMgから推算される水温(Oomori et al. 1987)の年較差は、気温から求めた水温の年較差とほぼ一致すること、トゥファ年輪の夏季と冬季の縞の成長速度はほぼ一定であること、から(2)の可能性は低いと考えられる。
以上のように、復元したトゥファδ13C・δ18O値から季節変動レベル及び平均値で定量的な議論をすることは困難であるが、動的同位体効果は季節変動を通じて一定であるとみなすことで、年々変動レベルでの古気候・古環境情報を検討した。結果、現生トゥファδ18O(1999年~2012年の記録)から推定される平均水温は、2003年と2010年のエルニーニョ発生時に上昇ピークが認められた。古トゥファδ18Oの年々変動についても同様に、エルニーニョ現象に相当する3-6年間隔で低下ピーク(水温上昇)が見られた。また、こうした水温の年々変動はδ13Cと逆相関関係にあり、気温上昇に伴い有機物負荷が増加したことを示唆する。
濁川トゥファの縞構造は、1年に1枚の縞が作られる年縞からなり、夏季のMgに富む方解石と冬季のMnに富む方解石からなる。安定同位体比は現生及び古トゥファ共に、夏季のMgに富む縞(δ18O=-10.1‰, δ13C=-6.5‰)は、Mnに富む冬季の縞に比べて低い値(δ18O=-9.2‰, δ13C=-7.0‰)を示す。
河川水DIC-δ13Cと水質データ(水温、pH、アルカリ度)から推定されるCO32-起源の方解石δ13Cの理論値は平均値1.8‰、最大・最小値差3.5‰、トゥファ方解石δ13Cの平均値5.6 ‰、最大・最小値差0.57‰となり、トゥファの平均値が3.9‰大きく、最大・最小値差が約1/6倍となった。同様に、δ18Oについても、Zheng (1999)に基づく河川水δ18Oとトゥファδ18Oから推定される水温は、実測した濁川水温の年較差(約17°C)に比べて約1/6倍となった。平均値の差は、流下の際の急激なCO2脱ガスによる動的同位体効果によるものと考えられる。一方、最大・最小値差の原因については、(1)トゥファ年縞の変形構造に対するサンプリングによる平滑化、(2)縞の生成速度の変化、の2つの可能性が考えられる。方解石Mg/Caモル比と水のMg2+/Ca2+活量比の分配係数DMgから推算される水温(Oomori et al. 1987)の年較差は、気温から求めた水温の年較差とほぼ一致すること、トゥファ年輪の夏季と冬季の縞の成長速度はほぼ一定であること、から(2)の可能性は低いと考えられる。
以上のように、復元したトゥファδ13C・δ18O値から季節変動レベル及び平均値で定量的な議論をすることは困難であるが、動的同位体効果は季節変動を通じて一定であるとみなすことで、年々変動レベルでの古気候・古環境情報を検討した。結果、現生トゥファδ18O(1999年~2012年の記録)から推定される平均水温は、2003年と2010年のエルニーニョ発生時に上昇ピークが認められた。古トゥファδ18Oの年々変動についても同様に、エルニーニョ現象に相当する3-6年間隔で低下ピーク(水温上昇)が見られた。また、こうした水温の年々変動はδ13Cと逆相関関係にあり、気温上昇に伴い有機物負荷が増加したことを示唆する。