JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ]Eveningポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT23] [JJ] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2017年5月23日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[HTT23-P12] 京都市内において濃度が異なる大気汚染物質が街路樹に与える影響

*山岸 彩1山田 悦1半場 祐子1 (1.京都工芸繊維大学)

大気汚染物質は植物に対してストレスとなり、生理機能などに悪影響を及ぼすことが知られている。京都市内では 1981 年から 2015 年にかけて光化学オキシダント(Ox)濃度が年々増加していることが確認されており、大気汚染物質の作用を受けやすい街路樹への影響が懸念される。 そこで、 O3 濃度が異なると予想される京都市の 3 地点で O3 濃度を実測し、同時にそこで生育する街路樹を対象に生理活性機能を評価することにより、 O3 が街路樹に与える影響を調査することを目的とした。
京都市測定局の観測により O3 の前駆物質である NOx 濃度が異なることが示されている京都市内の 3 地点、大宮(35°01'08.N 135°75'20.E)、山科(34°97'18.N 135°81'45.E)、西ノ京(35°01'83.N 135°73'08.E)を調査地とし、京都市内で多く植えられている低木のヒラドツツジ(Rhododendron pulchrum)および高木のソメイヨシノ(Prunus yedoensis)を対象に実験を行った。 7 月上旬と 11 月下旬に短期型パッシブサンプラーを用いて O3 を捕集し、イオンクロマトグラフ法により各調査地の O3 濃度を測定した。O3 濃度が高い調査地に生育する樹木ほど生理活性に障害が出ていると予測し、携帯型光合成蒸散測定装置 Li-6400(LI-COR 社)を用いて光合成活性を評価した。また、長期的な水利用効率に対する指標となる炭素安定同位体比を CN-IRMS を用いて測定した。さらに、光合成活性に影響を与える要因を特定するために、ピアソンの積率相関分析により環境変数を分析した。
7 月上旬の O3 濃度は大宮 75.8 ppb、山科 80.8 ppb、西ノ京 55.6 ppb であった。PPFD 1500 µmol m² s¹ での光合成速度は山科に生育するソメイヨシノが有意に高い値を示した。気孔コンダクタンス(gs)も同様の傾向があった。一方、ヒラドツツジではA/Ci Curve Fitting により算出されたルビスコの最大カルボキシル化速度(Vcmax)、チラコイド膜の電子伝達速度(J)が西ノ京で高かったことから、西ノ京に生育するヒラドツツジはポテンシャルとして持っている光合成における生化学的活性が高いことが確認された。このように、街路樹の光合成活性には調査地間で差異が認められたものの、相関分析によると O3 濃度とは相関が無いことが明らかとなった。炭素安定同位体分別は大宮および山科に生育するヒラドツツジが高い値を示したことから、これらの 2 地点で水利用効率が良いことが確認された。
以上の結果より、調査を行った 3 地点間での O3 濃度の違いはソメイヨシノおよびヒラドツツジの光合成活性に影響を与えていないことが確認され、調査地の O3 濃度は街路樹に悪影響を与えるほどではなかったと推察された。水利用効率について、大宮と山科に生育するヒラドツツジが高い値を示したことから、これら 2 地点は乾燥状態にあることが推測され、その結果、光合成活性も低い値を示した可能性がある。