[MGI32-P02] 大気海洋海氷結合モデルを用いた水惑星の気候に対する海洋大循環の影響の数値的研究
キーワード:大気海洋海氷結合モデル、水惑星の気候、大気海洋熱輸送、氷アルベドフィードバック
1. はじめに
近年次々と発見される系外惑星では多様な気候が実現されていると考えられ, その構造の理解のために惑星気候の数値シミュレーションが盛んに行われている. 我々の研究グループでも, 系外惑星の気候決定に対する大気大循環の役割の理解を深めるために, 大気大循環モデルを用いて, 惑星表面が水で覆われた惑星(水惑星)の気候探索を進めてきた(Ishiwatari et al., 1998; Ishiwatari et al., 2007; 以後 INTH98, INTH07 と書く). そこでは, 大気大循環の役割に焦点を当てたため, 海洋大循環は全く考慮されなかった. しかし, 海洋大循環による熱輸送もまた惑星の気候決定に対して重要な影響を与えるであろう. 近年の計算科学の発展は大気海洋海氷結合モデルの長時間積分を可能にし, 水惑星の気候研究においても海洋大循環を陽に考慮した研究がなされ始めている(例: Marshall et al., 2007; Rose et al., 2015). 彼らの先駆的研究により, 水惑星結合系の気候の太陽定数依存性, 自転角速度依存性などが明らかになりつつある. しかし, 水惑星結合系の太陽定数依存性の探索一つとっても, 暴走温室までを含めた気候レジーム図の作成, 海洋塩分や鉛直渦拡散係数等が現在地球と大きく異なる場合での振る舞いの掌握などは依然としてなされていない.
本研究では, 開発した結合モデルを用いて, INTH07 で調べられた水惑星の気候の太陽定数依存性の問題に海洋大循環の効果を導入し, 水惑星の気候決定に対する海洋大循環の影響を考察することに焦点を当てる. また, 先行研究ではなされなかった暴走温室までを含めた結合モデルによる気候レジーム図の作成を目指す. 本発表では, INTH98 や INTH07 と同様の大気設定をした結合モデルによりここまでに計算できるようになった, 太陽定数増減実験の標準実験(太陽定数は現在地球の値)の結果を報告する.
2. 数値モデル
大気モデルは惑星大気大循環モデル DCPAM (https://www.gfd-dennou.org/library/dcpam/)である. 力学過程では三次元プリミティブ方程式系と水蒸気輸送がスペクトル法によって解かれる. また, INTH98 の水惑星灰色大気大循環の実験を再現するために, 放射過程には Nakajima et al. (1992) の灰色大気放射スキーム, 凝結過程には Manabe et al. (1965) の湿潤対流調節スキームと大規模凝結スキームを用いる. これらにより, 大気モデルによって, 風, 温度, 表面圧力, 比湿の時間発展が計算される. 大気モデルの解像度は水平格子間隔約 5 度・鉛直 26 層にとる. 一方, 海洋海氷モデルは東西平均二次元モデルである. 海洋の力学過程では静力学ブジネスク方程式系がスペクトル法によって解かれる. モデルが解像できない中規模渦や対流による混合を表現するために, Gent and McWilliams (1990) や Marotzke (1991) のパラメタリゼーションを用いる. これらにより,
海洋モデルは流速・温度・塩分の時間発展を計算する. 海氷モデルは Winton (2000) に基づく鉛直 3 層熱力学モデルであり, 海氷の厚さと温度が計算される. 以下の実験では, 海洋モデルの解像度は南北格子間隔約 2.5 度・鉛直 60 層, 海氷モデルの解像度は南北格子間隔約 2.5 度に設定する. 最後に, 三つのモデルはカップラー・ライブラリ(Arakawa et al.,2011) により結合されている.
3. 結果
初めに INTH98 に習って表面アルベドがゼロの場合の結果を記述する. 初期に 280 K の等温大気・海洋を設定すると, 結合系は数万年積分後に統計的平衡状態に達し, 氷線緯度 50 度の部分凍結解を得る. 我々の結果は, 水惑星結合計算の先行研究である Marshall et al. (2007) が得た大気海洋大循環のパターンとよく似ているが, 循環強度が弱いことが特徴である. 次に, 海洋の大きな熱慣性や海洋大循環の効果を検証するために, 海の取り扱いを swamp ocean(熱容量ゼロ)や slab ocean(熱容量が有限)に変えた実験を行った. これらの実験結果の比較により, 海洋大循環を考慮した場合には, 中低緯度間の南北温度差は約 5 度減少し, 赤道の海面温度が約 4 度低下することが分かった. 一方で, 氷線緯度や全球平均惑星表面温度は, 海洋の取り扱いによらず, それぞれ約 50 度と約 283 K であった. 次に, 氷アルベドフィードバック存在下での海洋大循環の効果を検証するために, INTH07 と同様の氷アルベドフィードバック(263 K 以下の所で表面アルベドを 0.5, それ以外はゼロに設定)を導入した場合の結果を記述する. 今回の太陽定数の設定では, swamp ocean 実験と比べて, slab ocean 実験や結合系を用いた実験では氷線緯度は約 10 度後退し, それと対応して全球平均惑星表面温度は約 5 度高くなった. このことは, Rose et al. (2015) が主張するように, 氷アルベドフィードバックが存在するときに, 海洋の熱慣性や海洋熱輸送が水惑星の気候決定に対してより重要な影響を与えることを示唆する. 水惑星の気候決定に対する海洋大循環の役割の理解をさらに深めるために, 今後は太陽定数を様々に変えたパラメータ実験を進める.
近年次々と発見される系外惑星では多様な気候が実現されていると考えられ, その構造の理解のために惑星気候の数値シミュレーションが盛んに行われている. 我々の研究グループでも, 系外惑星の気候決定に対する大気大循環の役割の理解を深めるために, 大気大循環モデルを用いて, 惑星表面が水で覆われた惑星(水惑星)の気候探索を進めてきた(Ishiwatari et al., 1998; Ishiwatari et al., 2007; 以後 INTH98, INTH07 と書く). そこでは, 大気大循環の役割に焦点を当てたため, 海洋大循環は全く考慮されなかった. しかし, 海洋大循環による熱輸送もまた惑星の気候決定に対して重要な影響を与えるであろう. 近年の計算科学の発展は大気海洋海氷結合モデルの長時間積分を可能にし, 水惑星の気候研究においても海洋大循環を陽に考慮した研究がなされ始めている(例: Marshall et al., 2007; Rose et al., 2015). 彼らの先駆的研究により, 水惑星結合系の気候の太陽定数依存性, 自転角速度依存性などが明らかになりつつある. しかし, 水惑星結合系の太陽定数依存性の探索一つとっても, 暴走温室までを含めた気候レジーム図の作成, 海洋塩分や鉛直渦拡散係数等が現在地球と大きく異なる場合での振る舞いの掌握などは依然としてなされていない.
本研究では, 開発した結合モデルを用いて, INTH07 で調べられた水惑星の気候の太陽定数依存性の問題に海洋大循環の効果を導入し, 水惑星の気候決定に対する海洋大循環の影響を考察することに焦点を当てる. また, 先行研究ではなされなかった暴走温室までを含めた結合モデルによる気候レジーム図の作成を目指す. 本発表では, INTH98 や INTH07 と同様の大気設定をした結合モデルによりここまでに計算できるようになった, 太陽定数増減実験の標準実験(太陽定数は現在地球の値)の結果を報告する.
2. 数値モデル
大気モデルは惑星大気大循環モデル DCPAM (https://www.gfd-dennou.org/library/dcpam/)である. 力学過程では三次元プリミティブ方程式系と水蒸気輸送がスペクトル法によって解かれる. また, INTH98 の水惑星灰色大気大循環の実験を再現するために, 放射過程には Nakajima et al. (1992) の灰色大気放射スキーム, 凝結過程には Manabe et al. (1965) の湿潤対流調節スキームと大規模凝結スキームを用いる. これらにより, 大気モデルによって, 風, 温度, 表面圧力, 比湿の時間発展が計算される. 大気モデルの解像度は水平格子間隔約 5 度・鉛直 26 層にとる. 一方, 海洋海氷モデルは東西平均二次元モデルである. 海洋の力学過程では静力学ブジネスク方程式系がスペクトル法によって解かれる. モデルが解像できない中規模渦や対流による混合を表現するために, Gent and McWilliams (1990) や Marotzke (1991) のパラメタリゼーションを用いる. これらにより,
海洋モデルは流速・温度・塩分の時間発展を計算する. 海氷モデルは Winton (2000) に基づく鉛直 3 層熱力学モデルであり, 海氷の厚さと温度が計算される. 以下の実験では, 海洋モデルの解像度は南北格子間隔約 2.5 度・鉛直 60 層, 海氷モデルの解像度は南北格子間隔約 2.5 度に設定する. 最後に, 三つのモデルはカップラー・ライブラリ(Arakawa et al.,2011) により結合されている.
3. 結果
初めに INTH98 に習って表面アルベドがゼロの場合の結果を記述する. 初期に 280 K の等温大気・海洋を設定すると, 結合系は数万年積分後に統計的平衡状態に達し, 氷線緯度 50 度の部分凍結解を得る. 我々の結果は, 水惑星結合計算の先行研究である Marshall et al. (2007) が得た大気海洋大循環のパターンとよく似ているが, 循環強度が弱いことが特徴である. 次に, 海洋の大きな熱慣性や海洋大循環の効果を検証するために, 海の取り扱いを swamp ocean(熱容量ゼロ)や slab ocean(熱容量が有限)に変えた実験を行った. これらの実験結果の比較により, 海洋大循環を考慮した場合には, 中低緯度間の南北温度差は約 5 度減少し, 赤道の海面温度が約 4 度低下することが分かった. 一方で, 氷線緯度や全球平均惑星表面温度は, 海洋の取り扱いによらず, それぞれ約 50 度と約 283 K であった. 次に, 氷アルベドフィードバック存在下での海洋大循環の効果を検証するために, INTH07 と同様の氷アルベドフィードバック(263 K 以下の所で表面アルベドを 0.5, それ以外はゼロに設定)を導入した場合の結果を記述する. 今回の太陽定数の設定では, swamp ocean 実験と比べて, slab ocean 実験や結合系を用いた実験では氷線緯度は約 10 度後退し, それと対応して全球平均惑星表面温度は約 5 度高くなった. このことは, Rose et al. (2015) が主張するように, 氷アルベドフィードバックが存在するときに, 海洋の熱慣性や海洋熱輸送が水惑星の気候決定に対してより重要な影響を与えることを示唆する. 水惑星の気候決定に対する海洋大循環の役割の理解をさらに深めるために, 今後は太陽定数を様々に変えたパラメータ実験を進める.