JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[EJ]Eveningポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS11] [EJ] 結晶成長、溶解における界面・ナノ現象

2017年5月24日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[MIS11-P04] らせん成長する結晶に現れるヒステリシスの数値計算

*三浦 均1 (1.名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

キーワード:結晶成長、ヒステリシス、らせん成長、数値計算

ステップ・ダイナミクスは,結晶成長における本質的な物理過程のひとつである。結晶表面には原子スケールの高さを持つ段差(ステップ)が存在し,そこに原子や分子が取り込まれることによってステップが前進し,結晶が一層ずつ積み上げられていく(層成長モデル)。従って,結晶成長メカニズムを解明するには,ステップの供給メカニズムやステップ前進速度を決める物理を理解する必要がある。本研究では,結晶表面に吸着した不純物と前進ステップとの相互作用によって引き起こされる「成長ヒステリシス」に着目した。
 成長ヒステリシスとは,結晶化駆動力(例えば,過飽和度)を減少させたときと増加させたときとで,結晶成長速度の履歴が異なる現象である。いくつかの結晶と不純物の組み合わせに対して成長ヒステリシスが観察されていることから,そこにはなんらかの普遍的な不純物効果が作用していることが示唆される。従って,成長ヒステリシスの発生メカニズムを解明することは,結晶成長における不純物効果の理解に繋がる。成長ヒステリシスの要因としては,結晶表面に付着した不純物と前進ステップとの相互作用が検討されてきた。駆動力を減少させていくと,ステップ前進速度が低下し,それによって吸着不純物が増加し,それがさらにステップ前進速度の低下を招くというポジティブ・フィードバックによって,ステップの前進が突然停止する(カタストロフィック変化)。ひとたびステップ前進が停止すると,不純物の脱離吸着が平衡に達するまで吸着不純物が増加する。そのため,次に駆動力を増加してもなかなかステップが再始動しない。すなわち,ヒステリシスが現れることになる。このステップ前進速度と吸着不純物量の相互依存関係は平均場近似に基づいて定式化され,ある過飽和度領域において異なる複数の定常解が存在することが明らかとなった[1]。また,平均場近似が成り立たない現実的な状況を想定した数値計算によって,複数定常解が存在する過飽和度領域においてステップ前進速度のヒステリシスが再現された[2]。しかし,成長ヒステリシスはステップ前進速度だけでなく,結晶の面成長速度においても観察されている。面成長速度は,ステップ前進速度だけでなく,ステップの供給機構にも依存する。そこで,本研究では,代表的な成長様式であるらせん成長を想定し,面成長速度における成長ヒステリシスについて調べた。
 数値計算法としては,フェーズフィールド(PF)法とモンテカルロ(MC)法を組み合わせたモデル[2]を用いた。この手法では,ステップ・ダイナミクスをPF法で,結晶表面におけるランダムな不純物脱離吸着をMC法で解く。結晶面にはらせん転位をひとつ導入し,連続的にらせんステップが供給されるようにした。初期状態として,不純物がまったく吸着していない結晶表面を用意し,結晶の成長と不純物の脱離吸着を開始させた。時間とともに過飽和度を一定率で減少させ,その後,増加させるというサイクルを繰り返し,面成長速度の履歴を調べた。過飽和度を減少させたとき,面成長速度はある過飽和度において急激に減少し,ほぼゼロとなった。その後過飽和度を増加させたとき,面成長速度はある過飽和度において急激に増加し,不純物がないときと同程度まで回復した。この過飽和度のわずかな変化による面成長速度の急激な変化(カタストロフィック変化)は,いずれのサイクルにおいても確認された。面成長速度が急激に減少するときの過飽和度は,急激に増加するときの過飽和度とは明らかに異なっており,ヒステリシスが再現された。面成長速度の急激な変化が生じる過飽和度は,平均場理論の予言とほぼ一致した。
 以上の結果より,結晶の面成長速度に見られるヒステリシスも,ステップ前進速度と同様のメカニズムで生じることが明らかとなった。すなわち,結晶表面における不純物の「遅い」脱離吸着,及び,吸着不純物による前進ステップのピニング効果である。ヒステリシスが現れる過飽和度の値やその範囲は,ステップ前進や不純物脱離吸着に関する物理量から算出できるため,実験データと比較することで種々の物理量の推定が可能になると期待される。また,ステップ・ダイナミクスにおける不純物効果の理解も進展するであろう。

参考文献:[1] H. Miura and K. Tsukamoto, 2013, Cryst. Growth Des. 13, 3588-3595. [2] H. Miura, 2016, Cryst. Growth Des. 16, 2033-2039.