JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ]Eveningポスター発表

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[M-IS17] [JJ] 海底マンガン鉱床の科学:基礎から応用まで

2017年5月21日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[MIS17-P07] 北西太平洋域のマンガンクラストの成長速度と微細層序

*高橋 浩規1小田 啓邦2臼井 朗3伊藤 孝1 (1.茨城大学、2.産業技術総合研究所、3.高知大学)

キーワード:マンガンクラスト、北西太平洋、古地磁気層序、X線CT、成長縞

マンガンクラストは,海底の安定した露岩を平板状に被覆するFe-Mn酸化物を主成分とした化学堆積岩である.その微細成長構造(生成当時のクラストの表層構造)には数十万~数千万年スケールの海洋環境の変遷やイベントが記録されている可能性が指摘されている(Sorem and Foster, 1972; 西村, 1993; 臼井, 1998).一例として,北西太平洋フィリピン海プレート上に位置する正徳海山のクラスト試料(D96-m4)では,電子顕微鏡の後方散乱電子像強度(BEI)変動にみられる成長縞がミランコビッチサイクルと対応していることが示唆され(小田ほか, 2013),それがFe-Mn酸化物と砂質底生有孔虫による周期的な構造であることが報告されている(高橋ほか, 2015). さらに10Be年代測定法(Usui et al., 2007)と古地磁気層序(Oda et al., 2011)によって2つの成長速度(10Be: 6.0 mm/m.y., 古地磁気: 5.1 mm/m.y.)が推定されている.しかし,この試料における古地磁気年代の再現性や,微細成長構造に観察できる成長縞がどの程度地理的に連続しているかなどの課題は確認されていない.そこで本研究では,特徴的な成長縞が観察できる正徳海山D96試料とその周辺の北西太平洋域フィリピン海プレート上の鉄マンガンクラスト試料5点に関してマイクロフォーカスX線CT測定による非破壊内部観察を行い,各試料の層序の組み立てを試みた.さらに,D96試料ブロックからの新たな薄片に対しSQUID顕微鏡分析を試み,先行研究との成長速度の比較検討も試みた.
 X線CTでは,本試料(計6点)すべてに砂質底生有孔虫の生痕化石による構造が観察でき,Fe-Mn酸化物と底生有孔虫による互層が確認できた.先行研究に使用されているD96試料に関してさらに高解像度で観察すると,内部の底生有孔虫の生痕化石(チューブ状)を立体的に観察することできた.また,Fe-Mn酸化物層と底生有孔虫層の生成当時の表面の様子の違いも見られた.よって,D96試料に観察できた成長縞はこの海域のクラスト全般にみられる特徴的な構造であり,Fe-Mn酸化物が成長するなかで底生有孔虫が繁殖しやすい環境が存在し,その環境変動が微細成長構造に一様に記録されていることを示唆している.しかし,各試料の内部構造を比較検討した結果,試料間の連続性は低く,周期は完全には一致しなかった.これは各試料が採取された海山ごとで環境の差が生まれ,それがクラストの微細成長構造に影響を与えた可能性を示唆している.SQUID顕微鏡測定では,D96試料の新たな薄片において5 点の極性反転部分を確認し,極性反転部分と標準地球磁場逆転年代軸を順にあてはめていく方法をとり成長速度を推定した.各区間の成長速度は,表層0~3.5 mmでは4.5 mm/m.y.(100万年に4.5 mm),3.5~7.1 mmでは18.1 mm/m.y.,7.1~7.7 mmでは6.5 mm/m.y.,7.7~9.5 mmでは2.6 mm/m.y.,9.5~11.6 mmでは12.2 mm/m.y.である.最初の極性反転部分までは先行研究との整合性がよく,表層から3.5 mmが現在から約78万年前に起きた最初の地磁気逆転境界であるBrunhes-Matuyama境界(B-M境界: 0.78 Ma)という結果は信頼性が高いと考える.また,急激に成長速度が速くなる箇所がみられるが,微細成長構造に観察できる底生有孔虫と砕屑物による見かけの成長速度への影響を考慮すると,本研究の結果は先行研究から大きく外れるわけではない.より信頼性の高い最初の極性反転部分までの微細成長構造を確認すると,底生有孔虫層は約78万年前までに4層が観察される.したがって,これは正徳海山において約78万年前から現世までに4回の底生有孔虫が繁殖するような環境条件が整ったことを示す.具体的にそれがどのような環境であったかは特定できないが,現世の最表層(0 mm)はFe-Mn酸化物からなり底生有孔虫の密集が確認できないため,これら4層の期間は現在とは全く異なる環境と思われる.