[MIS21-P06] 東南極の気候変動の検出と解明に向けた大気・氷床・海洋の長期的観測
キーワード:大気、南極、北極
1. はじめに
本発表は、人類が地球全体の観測を始めて以来の数 10 年間における南極域の気候の変化に関する知見を振り返り、現在の変化のメカニズムを知るための観測・研究の提案を行う。南極氷床の質量収支は海水準変動に最も大 きな影響を与える可能性を持っているため、その将来の変化を予測によって知ることは人類の目標でもある。本 研究の成果となる現在の変化のメカニズムの理解は、南極氷床の質量収支の将来を考察する上で有意義な知見で あるとともに、将来予測をするための気候モデルにそのメカニズムを組みこむことで、予測精度の向上に貢献す る。
2. IGY 以降の南極域の気候変化の特徴
地球温暖化が進行する中、西南極の温暖化は地球の平均より速いペースで温暖化している。このことは polar amplification として理解される。しかし、東南極では、この 50 年間に温暖化や寒冷化の時期がめまぐるしく入れ 替わり、一定の傾向は現れていない。ただし、最近 10 年間には昭和基地周辺の温暖化が見出されるようになって きたかに見える。これまでの東南極の温暖化抑制や最近の温暖化傾向はオゾンホールの 1980 年来の長期的発達と フロンガス規制を反映した最近のオゾンホール回復が関係している可能性があるという議論がある(平沢、 2016)。
南極氷床の質量収支では、西南極の消耗が明瞭で、東南極では著しい変化は観測されていなかった。ところが、 これについても最近 10 年間で東南極の西半分にあたる Droning Maud Land(昭和基地やドームふじ基地はこの領域 にある)において、これまでの観測で捕らえられたことのない著しい涵養が観測された。その結果としてこの地 域の低標高域での涵養が著しいことが、衛星による重力観測で示唆されている。一方、この時期の高標高域にお ける涵養量は絶対量としては目立たないが、通常の涵養量に対する比率として見ると、低標高域から高標高域ま で同程度であることは興味深い(Motoyama et al., 2015)。
3. 本研究の概要
この観測・研究は、これらの最近起こっているいくつかの著しい現象を含めて、今後 10 年以上に亘る Droning Maud Land の気候の変化を検出し、そのメカニズムの理解から将来の変化傾向を知るための重要な気候プロセスを 示す。このために、気象だけでなく、雪氷及び海洋の観測と研究を併合して行う。
東南極のこれまでの温暖化の抑制や今後の変化傾向を知るために最も必要なことは氷床の内陸域における現場観 測をおいて他にない。この計画では、高層気象ゾンデ観測(ゾンデ観測)と無人気象雪氷観測(AWS)網の展開 を基盤とする。例えば、ゾンデ観測は、米国の南極点基地(図1の SP)において IGY 以来の長きに渡って実施され、2005 年からはフランス・イタリアが運営するドーム C 基地 (同 DC)において実施されるようになった。ロシアは DC の南西 方にあるボストーク基地で長く観測を行っていたが現在は行われ ていない。結果として、南極氷床上の対流圏・成層圏の 50 年以上 の変化を示すデータは SP からの一つしかない。今後の変化は、 DCが加わって2つとなる。しかし、Droning Maud Landにおける 最近の顕著な涵養など、南極氷床の地域的な変化を含めて捕らえ るためにはゾンデ観測網は足りない。少なくとも Droning Maud Land の内陸に必要である。その第一候補はドームふじ基地(図 1 の DF)である。尚、西南極の内陸にはかつてバード基地があった が、最近、米国ではこの地域での活動を強化しつつあり、現在の 体制に DF とバード基地が加われば、南極氷床上の対流圏・成層 圏の大気構造の観測は格段に向上するはずである。これらの観測の結果は、当然ながら、ERA や NCEP、JRA などで知られる気候 再解析データの品質も必ず向上させる。これまで、南極域のデー タの信頼度はそれほど高くなかったが、その改善に貢献する。DF を再び通年の観測基地にしたい。
これまでのドーム計画などにより、Droning Maud Land の内陸域 の観測について、日本の国際的な期待は大きい(ICPM, International Committee on Polar Meteorology, 推奨レター, 2015 な ど)。内陸通年基地だけでなく、AWS 網の展開によって(図2)、 面的な現場観測を実現したい。この計画で構築する AWS 網では、 通常の気象要素に加えて、放射 4 成分、積雪深、雪温の計測を実 施する。観測データは衛星回線を通じて研究者のもとに届き、い くつかのデータ補正を施した後、国際的に公開する計画である。
先の最近の Droning Maud Land の氷床涵養の増加で述べたように、 氷床の頂上部から末端部まで注意深く分析する必要がある。AWS 拠点は、氷床末端部(S17)、カタバ風帯(Mizuho)、カタバ風 帯上部(MD246)、カタバ風発生域(Relay Station)、氷床頂上 部(Dome Fuji、図1のDFと同じ)である。これらは氷床上に現 れる典型的な気候区を代表する。これらの地点では、夏季や冬季 に 1 ヶ月程度のキャンペーン期間を設けてゾンデ、係留気球、無 人飛行機(UAB)を用いた観測を実施する。また、氷床表面状態 やピット観測によって氷床の表層の経年変化を捕らえる。地域ご との集中的な観測を定期的に組み合わせることによって、南極内 陸域の対流圏・成層圏の大気構造の変化や氷床質量収支の変化、 及びそれらのメカニズムの解明を目指す。他に、定期的に南極域 の航海を実施する「しらせ」での船上観測によって、海洋表層と 大気との相互作用を考慮する。
本発表は、人類が地球全体の観測を始めて以来の数 10 年間における南極域の気候の変化に関する知見を振り返り、現在の変化のメカニズムを知るための観測・研究の提案を行う。南極氷床の質量収支は海水準変動に最も大 きな影響を与える可能性を持っているため、その将来の変化を予測によって知ることは人類の目標でもある。本 研究の成果となる現在の変化のメカニズムの理解は、南極氷床の質量収支の将来を考察する上で有意義な知見で あるとともに、将来予測をするための気候モデルにそのメカニズムを組みこむことで、予測精度の向上に貢献す る。
2. IGY 以降の南極域の気候変化の特徴
地球温暖化が進行する中、西南極の温暖化は地球の平均より速いペースで温暖化している。このことは polar amplification として理解される。しかし、東南極では、この 50 年間に温暖化や寒冷化の時期がめまぐるしく入れ 替わり、一定の傾向は現れていない。ただし、最近 10 年間には昭和基地周辺の温暖化が見出されるようになって きたかに見える。これまでの東南極の温暖化抑制や最近の温暖化傾向はオゾンホールの 1980 年来の長期的発達と フロンガス規制を反映した最近のオゾンホール回復が関係している可能性があるという議論がある(平沢、 2016)。
南極氷床の質量収支では、西南極の消耗が明瞭で、東南極では著しい変化は観測されていなかった。ところが、 これについても最近 10 年間で東南極の西半分にあたる Droning Maud Land(昭和基地やドームふじ基地はこの領域 にある)において、これまでの観測で捕らえられたことのない著しい涵養が観測された。その結果としてこの地 域の低標高域での涵養が著しいことが、衛星による重力観測で示唆されている。一方、この時期の高標高域にお ける涵養量は絶対量としては目立たないが、通常の涵養量に対する比率として見ると、低標高域から高標高域ま で同程度であることは興味深い(Motoyama et al., 2015)。
3. 本研究の概要
この観測・研究は、これらの最近起こっているいくつかの著しい現象を含めて、今後 10 年以上に亘る Droning Maud Land の気候の変化を検出し、そのメカニズムの理解から将来の変化傾向を知るための重要な気候プロセスを 示す。このために、気象だけでなく、雪氷及び海洋の観測と研究を併合して行う。
東南極のこれまでの温暖化の抑制や今後の変化傾向を知るために最も必要なことは氷床の内陸域における現場観 測をおいて他にない。この計画では、高層気象ゾンデ観測(ゾンデ観測)と無人気象雪氷観測(AWS)網の展開 を基盤とする。例えば、ゾンデ観測は、米国の南極点基地(図1の SP)において IGY 以来の長きに渡って実施され、2005 年からはフランス・イタリアが運営するドーム C 基地 (同 DC)において実施されるようになった。ロシアは DC の南西 方にあるボストーク基地で長く観測を行っていたが現在は行われ ていない。結果として、南極氷床上の対流圏・成層圏の 50 年以上 の変化を示すデータは SP からの一つしかない。今後の変化は、 DCが加わって2つとなる。しかし、Droning Maud Landにおける 最近の顕著な涵養など、南極氷床の地域的な変化を含めて捕らえ るためにはゾンデ観測網は足りない。少なくとも Droning Maud Land の内陸に必要である。その第一候補はドームふじ基地(図 1 の DF)である。尚、西南極の内陸にはかつてバード基地があった が、最近、米国ではこの地域での活動を強化しつつあり、現在の 体制に DF とバード基地が加われば、南極氷床上の対流圏・成層 圏の大気構造の観測は格段に向上するはずである。これらの観測の結果は、当然ながら、ERA や NCEP、JRA などで知られる気候 再解析データの品質も必ず向上させる。これまで、南極域のデー タの信頼度はそれほど高くなかったが、その改善に貢献する。DF を再び通年の観測基地にしたい。
これまでのドーム計画などにより、Droning Maud Land の内陸域 の観測について、日本の国際的な期待は大きい(ICPM, International Committee on Polar Meteorology, 推奨レター, 2015 な ど)。内陸通年基地だけでなく、AWS 網の展開によって(図2)、 面的な現場観測を実現したい。この計画で構築する AWS 網では、 通常の気象要素に加えて、放射 4 成分、積雪深、雪温の計測を実 施する。観測データは衛星回線を通じて研究者のもとに届き、い くつかのデータ補正を施した後、国際的に公開する計画である。
先の最近の Droning Maud Land の氷床涵養の増加で述べたように、 氷床の頂上部から末端部まで注意深く分析する必要がある。AWS 拠点は、氷床末端部(S17)、カタバ風帯(Mizuho)、カタバ風 帯上部(MD246)、カタバ風発生域(Relay Station)、氷床頂上 部(Dome Fuji、図1のDFと同じ)である。これらは氷床上に現 れる典型的な気候区を代表する。これらの地点では、夏季や冬季 に 1 ヶ月程度のキャンペーン期間を設けてゾンデ、係留気球、無 人飛行機(UAB)を用いた観測を実施する。また、氷床表面状態 やピット観測によって氷床の表層の経年変化を捕らえる。地域ご との集中的な観測を定期的に組み合わせることによって、南極内 陸域の対流圏・成層圏の大気構造の変化や氷床質量収支の変化、 及びそれらのメカニズムの解明を目指す。他に、定期的に南極域 の航海を実施する「しらせ」での船上観測によって、海洋表層と 大気との相互作用を考慮する。