[MIS23-P03] 加熱による石筍中の流体包有物の酸素同位体再平衡
キーワード:鍾乳石、流体包有物、安定同位体、氷期間氷期サイクル
石筍中に含まれる流体包有物中の水の酸素同位体比(δ18Ofi)は、過去の気温変動を直接推定できる点で重要である。理論的には、δ18Ofiは、周囲のCaCO3の酸素同位体比(δ18Oca)との間で同位体交換平衡の影響を受けている可能性があり、同位体交換反応の大きさと速度を定量化することは、定量的な気候復元の評価を行うために必須である。しかし、流体包有物は微量であるため、実験的に同位体交換の影響を評価することは極めて困難であった。そこで本研究では、本研究室で開発した分析手法と沖縄の石筍試料を用いて、同位体交換平衡の影響を評価した。
測定前に石筍試料を加熱することによって、同位体交換の影響を評価した。同一深度から切り出した3–5個の試料を、ターボ分子ポンプで真空引きしながら、0–80 時間加熱した。この操作を異なる温度(25, 105℃)で行った。流体包有物のδ18OfiとδDfiは、流体包有物抽出装置(Uemura et al., 2016)を改良した装置を用いて測定した。
室温(25℃)での実験においては、δ18Ofiは一定値であり、有意な傾向はなかった。105℃加熱において、同じ層における流体包有物のδ18Ofiは、非加熱の状態から約30時間までの間にわずかに増加し、その後は一定値を示した。これは石筍の流体包有物とCaCO3との間で同位体交換が起こることを示した初めての実験結果である。δ18Ofiの変化量は、105℃における全量再平衡反応で予測される変化よりもはるかに小さく、CaCO3が水と反応する量は限られている事を示唆している。モデル計算の結果は、約5%の流体包有物中の水が、周囲のCaCO3と再平衡に達していることを示唆している。この結果は、仮に数万年間で石筍周囲の気温が変動し、同位体交換が起こっても、過去の気温の推定には、ほとんど影響しないことを示唆している。
測定前に石筍試料を加熱することによって、同位体交換の影響を評価した。同一深度から切り出した3–5個の試料を、ターボ分子ポンプで真空引きしながら、0–80 時間加熱した。この操作を異なる温度(25, 105℃)で行った。流体包有物のδ18OfiとδDfiは、流体包有物抽出装置(Uemura et al., 2016)を改良した装置を用いて測定した。
室温(25℃)での実験においては、δ18Ofiは一定値であり、有意な傾向はなかった。105℃加熱において、同じ層における流体包有物のδ18Ofiは、非加熱の状態から約30時間までの間にわずかに増加し、その後は一定値を示した。これは石筍の流体包有物とCaCO3との間で同位体交換が起こることを示した初めての実験結果である。δ18Ofiの変化量は、105℃における全量再平衡反応で予測される変化よりもはるかに小さく、CaCO3が水と反応する量は限られている事を示唆している。モデル計算の結果は、約5%の流体包有物中の水が、周囲のCaCO3と再平衡に達していることを示唆している。この結果は、仮に数万年間で石筍周囲の気温が変動し、同位体交換が起こっても、過去の気温の推定には、ほとんど影響しないことを示唆している。