[MIS23-P24] 珪質鞭毛藻群集に基づく最終氷期最盛期以降の日本海若狭沖における表層水温復元
キーワード:日本海、最終氷期、海表面水温、珪質鞭毛藻群集
日本海は対馬海峡、津軽海峡、宗谷海峡、間宮海峡の4つの海峡によって外海とつながっている。いずれの海峡も水深が130 mより浅いため、現在よりも120 mほど海水準が低かった最終氷期最盛期(LGM, 19 ka - 26.5 ka)における日本海は半閉鎖的な環境であった。対馬暖流の著しい流入制限と大陸からの淡水流入の影響により、LGMにおける日本海表層水は低塩分であった。亜熱帯から日本海へ熱と塩を輸送する対馬暖流は、日本海の海洋環境のみならず日本列島の気候にも大きな影響を与えている。したがって、対馬暖流の流入が制限されたLGMの日本海表面水温は、顕著に低下したはずである。ところが、これまでの先行研究において最終氷期の水温は現在よりも高い値を示しており、信頼できるLGMの海表面水温復元結果が得られていない。これは最終氷期に日本海の低塩分環境の影響を受けたことに起因する。珪質鞭毛藻は生物源オパールの骨格を持つ海生植物プランクトンで、水温に応じて鋭敏に群集組成を変化させることが知られている。また低塩分環境(24 - 26‰)で最も個体数が多くなることが報告されており、氷期日本海の特異な環境下でも群集解析に充分な個体数が海底堆積物から産出する。そこで本研究では、珪質鞭毛藻群集組成からLGMにおける日本海の海表面水温を復元することを目的とした。珪質鞭毛藻群集解析に用いた海底堆積物試料は、かいれいKR15-10航海において若狭湾沖(36°29.30’N, 135°25.62’E、水深845 m)で採取されたWB6ピストンコアである。コアの年代は浮遊性有孔虫殻の放射性炭素年代測定によって得られている。本研究では、暦年代で5 kaから30 kaの層準を研究対象とした。珪質鞭毛藻の産出状況は、最終氷期において、高緯度に生息するStephanocha属が多産し、コア上部になるにしたがって中低緯度に生息するDictyocha属が増加した。種レベルの観察によって、3属18種1変種1型の珪質鞭毛藻化石を同定した。氷期に卓越する寒冷種のStephanocha属について、S. octangulataとS. speculumの入れ替わりがあった。特にLGMにS. octangulataが一時的に卓越する状況は、現在のベーリング海で見られる群集構成と類似する。その後16 kaで減少していたS. octangulataが再び増加し、さらに低緯度域に生息するDictyocha messanensis f. spinosaが一時的に増加した。15 ka以降は温暖種のD. epiodonやD. messanensisが増加した。S. octangulataは現在の分布で北方に限られていることから、16 kaのS. octangulataの増加は親潮の流入を示唆しており、これによって低塩分が解消された。定量的な水温変化を復元するため、ベストモダンアナログ法を適用した。表層水温の復元値は最終氷期に5°Cを示し、最終氷期の水温が低かった。また先行研究では8-11 kaに対馬暖流の流入が再開したとされていたが、本研究ではそれより早い15 kaに水温が上昇し始めたことを示唆した。12 kaの復元表層水温は14°Cで、現在の同海域における表層水温と同程度になるため、この時期には対馬暖流の流入は完全に再開していたことが示唆された。