JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ]Eveningポスター発表

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[M-ZZ42] [JJ] 地球科学の科学史・科学哲学・科学技術社会論

2017年5月21日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[MZZ42-P01] プレートテクトニクスの受容のその後

*千葉 淳一1 (1.大原法律専門学校)

キーワード:プレートテクトニクス理論の受容、地球科学史、科学技術社会論

泊(2008)は、日本の地質学界におけるプレートテクトニクス(以下PT)理論の受容は、地震学・地球物理学界に比べてほぼ10年遅れの1986年ころであると結論付けた。その根拠の一つとして、日本地震学会と日本地質学会における発表のキーワードに含まれる「プレート語」の使用頻度の増加のカーブを挙げた。これに対して芝崎(2011)は、この比較はブルデューが定義した「界」の概念で説明可能であり、PT理論の受容のタイミングの違いを表すものではないのではないか、と疑問を呈した。また千葉(2016)では、この芝崎の発題を受けて、地質学と地球物理学の手法・用語法の違いでこの泊による比較を説明しうることを示した。
 本研究は、日本の地質学界がPT理論を受容したとされる1986年以降の地域地質の文献から、はっきりPT理論を否定しているもの、記述に「プレート語」を使用していないもの、逆に「プレート語」を使用しているものについて、それぞれどのような特徴が見られるかを比較したものである。地域地質の研究は、ある特定の地域の地質およびその構造を記載することを第一目的とし、その地域の構造発達史を明らかにすることをさらに一歩進んだ目的としている(もちろん、場合によってはさらに先の目標としての資源・環境・土木工事等への応用や、あるいは地学現象に関する一般理論の確立があることを排除するわけではない)。中には記載のために「プレート語」を使用する余地があるフィールド、そうでないフィールドがある。したがって研究者の記載・記述には、そのメインフィールドとしている地域の地質状況から受けている影響がある。個々の地域地質研究者は、彼らが選択したフィールドによって、PT理論を受容するプロセスをコントロールされてきた、ということもあり得るだろう。
 1990年代の「サイエンスウォーズ」、とりわけソーカル事件以後、「科学は自然と社会から共生成される」ということが言われるようになっている(Andrew Pickering,1995など)。泊(2008)は日本におけるPT理論受容プロセスという科学事件の言わば「社会と研究者の相互作用」の側面を明らかにするものであった。この事件の「自然と研究者の相互作用」の側面にはまだ興味深い問題が未整理で残されている。今回の発表は、この問題への取り組みの一環として、地質研究者の研究対象としてのフィールドとPT理論の受容プロセスの関係性を論じることを試みるものである。

引用文献
泊次郎『プレートテクトニクスの拒絶と需要』東京大学出版会, 2008年.
芝崎美世子『日本におけるプレートテクトニクス受容の「空白の十年」と地質維新 :転換期の技術革新と学会批判の構造』日本地球惑星科学連合2011年大会予稿集, 日本地球惑星科学連合, 2011年.
千葉淳一『地質学、(固体)地球物理学・地震学の研究手法と用語法の比較;プレートテクトニクス理論受容過程の違いをどう考えるか?』日本地球惑星科学連合2016年大会予稿集, 日本地球惑星科学連合, 2016年.
Andrew Pickering "The Mangle of Practice: Time, Agency, and Science", University Of Chicago  Press, 1995.