JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EE]Eveningポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM15] [EE] 太陽地球系結合過程の研究基盤形成

2017年5月25日(木) 15:30 〜 16:45 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[PEM15-P02] MUレーダー実時間アダプティブクラッター抑圧システムの開発

*橋口 浩之1久保田 匡亮1山本 衛1万城 孝弘1 (1.京都大学生存圏研究所)

キーワード:Atmospheric radar, Clutter rejection, NC-DCMP method, MU radar

大気レーダー観測において、しばしば強い地形性クラッターエコー(山や建物からのエコー)や航空機クラッターエコーが問題になることがある。地形性クラッター抑圧法としてNC-DCMP (Norm Constrained-Directionally Constrained Minimum Power)法が提案され、MUレーダーによる実観測データに適用し、効果があることが実証されている[Nishimura et al., JTech., 2012]。NC-DCMP法では、所望信号方向を固定した上で、ウエイトベクトルのノルムをある値以下に制約して、信号電力を最小化するように制約条件付最適化問題を解く。我々は、NC-DCMP法によるクラッター抑圧処理をMUレーダーのオンライン処理システムとして実装することに成功した。これにより、観測データの記録容量を数百分の1に削減でき、外部記憶装置などの制約の少ない標準観測を行うことが可能である。
MUレーダーでは30年以上に渡って、毎月100時間程度の対流圏・成層圏標準観測モードによる観測を継続している。まず、この標準観測モードにNC-DCMP処理を実装した。このモードでの観測データは8秒に1回取得される。そのため、実時間でクラッター抑圧を行うためには全ての信号処理を8秒以内に行う必要があるが、処理方法の工夫により、NC-DCMP法の処理時間を平均1.0秒にまで高速化した。山や建物からのエコーは時間的に大きく変化しないため、インコヒーレント積分7回分(約1分間)の受信信号を用いて最適ウエイトベクトルを求めるようにしたところ、良好な結果を得た。2015年11月の標準観測からNC-DCMP処理を適用しているが、安定運用できている。
NC-DCMP法は移動する目標に対しては高い効果を得られず、航空機クラッターを十分に抑圧することはできていない。先行研究において、航空機クラッターを抑圧する手法として2段階NC-DCMP法が提案されている。この手法は、まず、各時刻における航空機クラッターの到来方向を推定し、NC-DCMP法を用いて航空機クラッターを分離再生した後、元の受信信号から差し引く。次に再度NC-DCMP法を用いて地形性クラッターを抑圧する、というものである。先行研究では、上空を全探索し航空機クラッターの到来方向を推定していたため、実時間処理は不可能であった。そこで、ADS-B (Automatic Dependent Surveillance-Broadcast)を利用することで航空機クラッターの到来方向の探索範囲を限定することを検討する。ADS-Bは、航空機が精度の高い位置情報や高度などを放送するシステムである。
インドネシア共和国の西スマトラに建設が計画されている赤道MUレーダーは、八木アンテナ19本を1群とする55群構成で、各群からの受信信号を独立に取得可能なシステムが提案されている。本研究の成果は、この赤道MUレーダーにも適用可能である。